法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『機動戦士ガンダムNT』

増えすぎた余剰人口が宇宙へ追いやられた時代。その戦争において、宇宙から巨大建造物が落ちてくることを予言して、人々を救った子供たちがいた。
しかしその超常能力に着目した人々が、人体実験で人命と尊厳を傷つけていく。生きのびて成長した子供たちは、不死鳥のような兵器をさがしはじめる……


人気シリーズの世界設定を踏襲しつつ、新たなスタッフがオリジナルキャラクターを創造した、2018年の完全新作アニメ映画。吉沢俊一はこれが初監督作品になる。

シリーズ原作者の富野由悠季監督が作品を重ねるごとにエキセントリックでスピリチュアルに位置づけていった「ニュータイプ」設定を、そういう架空の能力として設定を明確に固めて、歴史の影で進んでいた子供たちの犠牲の物語にまとめている。


制作の流れとしては福井晴敏の小説をアニメ化した『機動戦士ガンダムUC*1の別視点による外伝であり後日談*2。しかしメインスタッフは脚本として福井晴敏のみ残り、監督やキャラクターデザインなど若手がしめる。
何人かの演出スタッフや作画スタッフは共通するものの、映像スタイルに『UC』や『サンダーボルト』のようなシャープさがなく、『オルフェンズ』や『ビルドファイターズ』くらいゆるい*3
『機動戦士ガンダム サンダーボルト』 - 法華狼の日記

線の多いアニメデザインで再現された太田垣康男の人物デザインは、アニメデザインで線が少なくなって平凡な印象になってしまった伊藤悠の人物デザインより映像作品として魅力的。

特にメカニック作画が、自動車まで手描きして近年のアニメとしては力を入れているものの、ブロックを組みあわせたプラモデルのように見えた。装甲が薄く殻のように機械を覆っていると感じさせた『UC』の雰囲気が映像にない。
また、『UC』からカメオ出演的に登場するキャラクターが本編より安彦良和風の絵柄で、対するメインキャラクターが子供時代の多さもあって目の大きさが目立つため、齟齬を感じたのが良くも悪くも印象的だった。
それでいて、宇宙世紀ミッシングリンクを埋める物語として、「ニュータイプ」を主題にした時系列で最新の物語として、直接の前編の『UC』だけでなく、過去シリーズの映像も作画を変えたりせずにつかわれている。劇中映像としてつかわれたところは映画内でモノクロ映画がTVに映るシークエンスのような面白みがあったが、過去の歴史的な事象のように回想するのであれば違和感を消すように加工を入念にほどこすべきでは、と思った。


しかし社会と戦争の犠牲にされた子供たちの物語として、ドラマのコンセプトがとおっていたので意外と見やすくもあった。きちんとした大人になることが許されなかった子供たち、その生き残った多くが求められた能力をもっていない凡庸な存在でしかないことにも味わいがある。
ニュータイプ」という概念を超能力者としてとらえて解明していく物語であり、超常的な技術を前提としてさまざまな組織が暗躍するわけだが、それもそのような能力を期待されながら発揮できなかった子供たちの苦しみをきわだたせていた。急に世界観を壊すように奇跡が起きるのではなく、あらかじめ示された現象の範囲でストーリーが進むので、一種のSFとして成立していて悪くないし、むしろ富野由悠季作品におけるニュータイプ描写より好みだった。
人々が居住する巨大な宇宙建造物「コロニー」を地球に落とす攻撃にはじまり、そのような人々が平和に住んでいる特殊な場所で戦うことになり*4、最終的に大規模なコロニー落としをめぐる戦いになる……主要な戦闘がシリーズ初代からの作品を代表する設定にもとづいて展開されるので、戦闘のコンセプトも意外とはっきりしていて見やすい。


もともと簡素な主軸に大仰な枝葉を繁らせる福井晴敏のストーリーは、映像化で尺におさめるため枝葉をそぎおとすと主軸の脆弱さが暴露されがち。
しかしこの作品では主軸を新設せず既存のものから選んで、無駄な枝葉は最初から切り捨てたおかげか、簡素だが適度に太い軸がきちんと立っているように感じられた。

*1:以下、他のシリーズ作品もふくめて略す。

*2:厳密には原型的な短編小説『不死鳥狩り』が先行して書かれている。

*3:キャラクターデザインは近年のシリーズ大半に参加しているサンライズ生え抜きのアニメーター金世俊。

*4:ここで怪獣映画的な市街地を巨人が蹂躙する情景も楽しめる。