法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ハピネスチャージプリキュア!』第49話 愛は永遠に輝く!みんな幸せハピネス!

最終回らしく、脚本と演出と作画監督が、それぞれ成田良美シリーズ構成と長峯達也シリーズディレクターと佐藤雅将キャラクターデザインという布陣。原画にも馬越嘉彦などが本編に初参加。
しかし全体として物語は流れ作業のように終わった。前半でラスボスのレッドを倒し、全てを引っかきまわした元凶が去り、後半に後日談が描かれる。映像も突出したところはなく、格闘戦は作画そのものはいいが、カメラ位置はロングショットばかりで変化がなく、アニメーターの力にたよったつくり。
ここ数話がどうにも評価しにくい物語展開だったこともあり、最終的に過去シリーズに近い情景で終わったのは良かったかな。『ハートキャッチプリキュア!』の三悪人と違って、日常生活に復帰した姿まで描かれたのは悪くなかった。番組開始時に新規性を求めたことを思い出すと、満足できる結果ではないけれど。


最終回なので全体の感想をいうと、問題と感じた大きな点がふたつ。
独自性を期待させた部分が途中から失われたことと、かわりに途中から主軸となった恋愛要素が噛みあわないまま全体を壊していったこと。


まず10周年記念作品として、毎週OP前にあったプリキュアの挨拶。各作品のキャラクターデザイナーが原画を担当し、適度に変化した絵柄で登場人物の成長を感じさせてくれた。しかしメインのプリキュアは30人と少しで、後半の中途半端な時期に挨拶が終わってしまった。第14話で現行作品のチーム4人が挨拶したことからチームごとに再登場するのか、それともゲストキャラクターが登場するかといった期待をしたが、かなわなかった。
また本編の独自性として期待させた、悪役の侵攻能力と、全世界で戦うプリキュア。しかし世界を変容させる能力は背景美術の負担が重いのか、そもそも陣取り合戦が物語で重視されなかったためか、徐々に描写されなくなっていった。全世界にプリキュアがいるという要素は、一見するとスケールが大きいようでいて、ステレオタイプな文化引用にとどまり、スタッフの視野のせまさを感じさせた。
前半に物語を牽引したキュアフォーチュンとキュアプリンセスの衝突、およびプリキュアハンターというライバルキャラは、中間くらいで物語として消化されてしまい、終盤前には解決してしまった。それぞれ思い返すと出来が悪いわけではなかったが、終盤戦の悪印象に上書きされてしまった。
映像面でも、けっこう序盤はバラエティある描写をしていた着替え能力、および敵を浄化するための3DCGダンスが、ほとんど後半は使われなくなってしまった。前半は力を入れて毎回のように描写されていたからこそ、あまり後半に使われなくなったことが目立ってしまう。
他、東映に初参加の大場小ゆり脚本は全体として良かったし、力をいれて尺をさいたアクションなども好感を持てたが、そうした部分も後半は精彩を欠いた。
プリキュアとは異なるかたちで個人の幸福を求めた敵三幹部も、対比関係を深める前に恋愛要素といれかわるように後退し、きちんとテーマを解決しないまま敗北して終わった。


そして後半に要点となった恋愛要素。前フリとなる第3話の「恋愛禁止」宣言では、それまでのシリーズにない要素として期待した*1。しかし後半までにしっかり積み上げてなかったことが、後々まで響く。
まず、キュアラブリーとミラージュから神ブルーへ恋愛感情が向けられることが、最後まで納得できなかった。能力を持ちながら問題に直面することをさけつづけ、良い結果だけ享受する。第7話で人間性に少しばかり違和感をもったが*2、周囲のプリキュアは許してしまうので問題性が解決しないまま。さすがにひどさに自覚的な台詞もあったが、プリキュア内でなぐさめる言葉として終わってしまい、ブルーにとどかなかった。
一方でプリキュアと同世代の相楽誠司は、超常の能力を持たずとも敵に対峙して秘密を共有する知人として、多くの関係性を積み重ねていた。それなのに報われず、さらにキュアラブリーと戦っても食い違いから話をそらされて終わってしまった。愛というものの難しさを描いた作品というには、それを直視する物語にもなっていなかった。
終盤になって物語の基盤がゆがんだまま進行したため、ひさびさに畑野森生や大塚隆史が演出に戻った第43話*3や第44話*4も、映像の素晴らしさが敵の言葉に説得力を与え、人間関係の混迷を強調してしまった。
そうした果てに最後の敵となった兄弟神レッドが、敵を愛で救ってきたプリキュアに対して愛を求めて拒絶されるパラドックスは面白かったが*5……これも最終回を見ると、落としどころを考えずに主人公の正当性を自壊させてしまっただけなのかもしれない。


シンプルなキャラクターデザイン、ブラックを基調として画面をひきしめるプリキュアデザイン、3DCGダンスや歌を使って敵に対峙するバトルなど、独自の魅力はいくつもある。
うまく消化できない要素を物語にとりいれず、10周年記念や玩具販促で求められたことを消化することを優先していれば、ひとつの番組としてまとまったかもしれない。
そう思いたくなるほど、後半の展開に困惑させられた。サブタイトルの「みんな幸せハピネス!」が皮肉としか感じられない。いつもなら、失敗してでも冒険する作品を評価したいと思うところなのだが。