法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ~2人の英雄~』

人間の8割が超常の個性をもつ超人社会で、特に優秀な個性をもつ者はヒーロー活動をおこなっていた。なかでも日本で象徴的に活躍するヒーローのオールマイトが、米国留学時代のサイドキックに招待された。
主人公の緑谷は、秘密裏にオールマイトの個性をひきつぐ弟子としてオールマイトについていく。しかし人工島でテロリストの占拠事件が発生。事件の背後にはオールマイトの個性弱体化があった……


原作者監修のもと、オリジナルストーリーでおくる2018年のアニメ映画。長崎健司監督や黒田洋介脚本などTVアニメのメインスタッフがそのまま担当した。
heroaca-movie.com
映画最新作公開にあわせた金曜ロードショーの地上波初放送で視聴。尺が長くないので、放映枠は通常のまま本編ノーカット*1
kinro.ntv.co.jp
ドラマを引っぱるゲスト父娘を生瀬勝久志田未来が演じる。どちらも吹替経験が多いためか、アフレコに違和感はなかった。


大ヒットとはいえないTVアニメの劇場版が、地上波ゴールデンで放映されることは貴重。しかし残念ながら、あらゆる意味でTVSPのような映画だった。
冒頭の絵コンテからして、被写体に接近して広角レンズのように遠近を強調しすぎ。迫力優先のTVアニメ向けの演出と印象づけられてしまった。舞台を米国に変えている表現のためにも、人物がどこにいるのか明確にするため、もっとカメラを引いて空間を見せるべきだ。以降のレイアウトも劇場サイズの絵になっていない。奇をてらった構図は小手先で、そうでない構図は人物の配置などに奥行きがない。1カットも短すぎ、人物の芝居が足りない。
作画にしても、もともとボンズ制作で悪くないTVアニメ版と比べて毛が生えたくらいで、さほどスペシャル感がない。むしろ長尺ゆえの統一感の弱さが、TVアニメで良好な回と比べて作りの雑さを感じさせてしまう。
同じボンズ制作でも、TVアニメとはメインスタッフを変えてスタジオジブリ出身者で固めた映画『鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星』くらいの、重厚な絵作りで見たかった。
さすがに中盤の爆豪と轟がタッグを組んだ場面などアクションはところどころ良かったし、クライマックス*2中村豊作画らしき主人公師弟の疾走は期待を超えてお釣りがくるくらいで、さすがの楽しさだったが。


さておき物語にしても、独立したドラマとして成立しきれていない。TVアニメからひとまとまりのエピソードを抜き出したかのよう。
一応、主人公師匠の秘密主義がかつてのサイドキックを悩ませ、道を誤らせたという事件の背景は悪くない。どんでん返しとしては予想の範囲内でありつつも、本編に足りない視点を入れて、作品の世界観を広げてくれた。
そうして過去を再生しようとするゲスト父に対して、過去の主人公と同じ無力さをかかえたゲスト娘が現在を生き、それを見た主人公師弟が「さらに向こうへ」進む……という対比はよくできている。
しかし、かつてのサイドキックに罪を向きあわせないまま、安易な裏切りをへて、あからじめ設定されたヴィランばかりが悪という世界観にもどってしまった。その映画オリジナルのヴィランも本編最大のヴィランの駒でしかなく、倒してもドラマのカタルシスがない。
たとえば映画オリジナルのヴィランこそ途中退場して、ヒーローの能力を主人公が奪ったことをゲスト父が知って敵視し、そのまま決戦になだれこむ……といった展開のほうが独立したドラマとして完成しただろう。

*1:五輪のメダル獲得の速報が何度も流れたのが残念。力なき者や、力を失った者をテーマにした物語と、良くも悪くもコントラストが強烈だった。

*2:敵が立方体や直方体を作りだして攻撃してきたのは笑った。