法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『アクアマン』

数十年前、米国の海岸にある小さな灯台で、ひとりの女性がうちあげられた。その女性は海底の権力争いから逃げてきたアトランティス人の女王アトランナだった。
灯台守とのあいだに一人息子を生むが、アトランナはふたたび海につれもどされた。息子アーサーはアトランティス王族の力をもち、海上で海賊を倒すヒーローとなったが……


マーベルの『アベンジャーズ』シリーズが連続ストーリーをまとめつつあった2018年に、『バットマン』や『スーパーマン』のDCがおくりだした単発ヒーロー映画。

土曜プレミアムの地上波初放送で視聴した。かなりカットされていたのか、ところどころ説明や余韻の不足を感じたのが残念。
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あくまで印象論だが、世界観の異なるヒーローが同居するマーベルより、DCは単独作品としてまとまることが多い*1。おかげで物語のとっかかりに悩むこともなく、素直なエンタメとして楽しめた。


異界から来た女性とむすばれるが、子供を残して女性は異界へもどる。そんな古典的な異種婚姻譚で物語がはじまる。
しかし女性の身体的な頑強さで、ヒーロー映画らしくもモダンな味わいがある。「女王に自由は与えられなかった」と重々しくナレーションした直後、強化スーツの軍隊相手に女王が一騎当千なバトルをはじめたのは笑った。
主人公が成長した本編も、身体性を見せつけるフィジカル貴種流離譚が楽しい。ビジュアルとあわせて『バーフバリ』*2を思い出した。男尊女卑の階級社会に見えながら意外と心身ともに強い女性なども通じる。
敵が主人公家族の対となる存在なところも同じだ。因縁の海賊は主人公家族と対応する邪悪な父子で、その二人の関係性だけは貴い。最大の敵は異父兄弟で、失われた母を軸にあらゆる局面で対立する。


舞台はメインの海中をはじめ、カラフルな世界を彩度の高いVFXで表現。クリスチャン・ラッセンを悪い意味で連想しつつも、CGらしい質感を消すのではなく活用する面白味があった。
さらに3D的な奥行きあるカメラワークを多用し、広がりを表現している。2D版で視聴すると演出にわざとらしさを感じがちな3Dだが、この作品は三次元の舞台を主人公たちが立体的に駆けまわるので、ほとんど違和感がなかった。
後半で地上が戦いの舞台になるのがシチリアで、明るい観光地らしい色彩が、彩度の高い作品にあっている。海近くの古い街ならではの斜面に広がる家屋群が、変化に富んだ足場となってアクションをもりあげていく。


ただひとつ期待外れだったのが、陸と海の境界というテーマ。陸側のキャラクターが隠居した灯台守と序盤で組織が壊滅する海賊くらいしかなく、海側の主導権争いで大半のドラマが終わってしまった。敵側が少し言及する陸側の環境破壊などを、もっと深くストーリーにとりこんでも良かったかもしれない。そうしなかったから娯楽として重すぎず簡潔にまとまったともいえるが。

*1:逆に別作品ヒーローが同居する映画は、DCはマーベルより評価が低いらしいが、あまりシリーズを見比べていないのでなんともいえない。

*2:hokke-ookami.hatenablog.com