法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『キングダム 運命の炎』

 大将軍の王騎に指導された信が、少数民族をひきいて混乱する地域の平定に成功したという。しかし隣国の趙が手薄な秦に侵攻をはじめた。秦王はかつて趙の人質だった時のことを王騎に語り、防衛を主導することを命じるが……


 佐藤信介監督による2023年の日本映画。春秋戦国時代を描いた日本の漫画を実写映画化するシリーズ3作目にあたり、戦いの途中でシリーズ4作目につづく。

 かつて虐殺した国家が復讐のように攻めてきたことへの防衛というのが本筋だが、王がその国家に一時期いて虐待されていた過去と脱出劇が前半で長々と回想される。その国が主人公の国に恨みをいだいているという共通点はあるが、ドラマとしての関連性が薄くて、あまり構成が良いとは思えない。
 ただし前半の長い回想で『隠し砦の三悪人』のような緊張感ある脱出劇が描かれたところは良かった。日本映画では珍しい馬車チェイスも成功しているし、精神がまいっている若き王が見る幻覚には『回転』*1のごとき恐怖感があった。むしろ回想パートを中心に映像化したほうが単独映画としての完成度が増したかもしれない。


 一応、本筋の戦争も主人公がひとつの目標を達成するまでを描いているし、その立体的な戦場をつかった奇襲作戦はVFXを活用して巧妙に視覚化できていると思う。しかし戦争全体の帰趨はわからないまま強大な敵があらわれて次回に続くという中途半端さ。
 前半もふくめて敵国への対応を議論するにあたっての議論が多く、動きの少ない会話劇が中心なのに、カット構成が平凡で構図に緊張感がなく、台詞そのものも巧みではない。特に気になったこととして、原作由来かもしれないが、相手の言葉を鸚鵡返しするやりとりが異様に多すぎる。
 全体的に矢や投げ槍が遅くて迫力がないことも気になった。投げ槍は現実の投擲はそんなものかもしれないと思いつつもスピード感がなく、あっさりかわせそうに見える。矢も『タイムスクープハンター』で感じたような恐怖がなく、貫通能力も高くない。