法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

良いこともしたナチス党員はいると思うのだが

ナチス研究者の田野大輔氏による警鐘記事が話題になっていた。
gendai.ismedia.jp
善行をおこなったナチス党員だが、雇ったユダヤ人が強制収容所に送られることをふせいだオスカー・シンドラーや、南京で日本軍の暴虐から安全区をまもったジョン・ラーベなどが歴史的に有名だろう。

もちろん、そうしたナチス党員がおこなった良いことは、ナチスという組織へ反する行動であった。組織は何らかの目的や区分をもって存在するが、個人は特定の目的をもたなくても存在している。
「絶対悪」とされるような目標をもっている組織ならば、全体がそう評されるべきという考えはあるだろう。これはどのような個人にも善の側面があるという考えと矛盾しない。


また、組織の根幹にある目的が「絶対悪」ならば、組織の善行として広報される基準そのものが壊れていて、一般的には善行と呼べないとわかることもある。もしくは誇大広告でしかないこともある。
よくナチスドイツの成果として語られるアウトバーンも、実際はナチス政権の誕生より前から計画が進められていた。それがナチスの成果と思われているのは、田野氏の記事にあるようにナチスが喧伝したためでもある。

よく言及されるアウトバーンの建設についても、それがヒトラーの独創ではなく以前からあった計画を利用したにすぎなかったこと、その雇用創出策としての効果も一般に考えられるよりはるかに小さかったこと、総じて新政権の積極姿勢を印象づけるプロパガンダ的な性格の強い事業だった点が強調されている。「ヒトラーアウトバーンを建設して失業者に職を与えた」といった俗説を、本書は明確に否定している。

むしろアウトバーンは現在その誇大広告性もまた有名になっていると思っていた。
たまたま田野氏と同じ話題に言及したエントリの注記で、百科事典をひいて説明できたくらい、一般人でも簡単に知ることができる。
hokke-ookami.hatenablog.com
しかし「良いこと」の証拠として田野氏への反論にもちだされるのを見ると、考えをあらためざるをえない。
むしろ「ナチスは良いこともした」という逸話が少なからず古臭い自己宣伝にすぎず、「斬新」どころか周回遅れということを周知するべき段階のようにも思えてくる。