法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「近代」が「世界史」と関係あることすら理解できない匿名記事を読んで、からまれている社会学者の田野大輔氏の大変さを思う

hokke-ookami.hatenablog.com
上記エントリに対して、批判したいらしい匿名記事を読んでいた。
anond.hatelabo.jp
引用文も読めていないことが明らかに思えたので、とりあえず無視しておいた。
しかし、はてなブックマークが意外と集まりつつきちんと批判されていないようなので、念のため簡単に応答しておく。

生徒「ヒトラーは合理主義者で近代の中枢的な思想先取りしているんですよ。」

田島「ごめん、ヒトラーに関しては高校の世界史レベルでしか勉強したことないんだ。」

どちらがとはいわないが、せめて「世界史の稲田先生」から学んでおくべきだったのでは、と小学生並みの感想をおぼえた。

こんな話に世界史の先生は無力だ。

だって「倫理や人権を無視したらイケる」という話は単に根本前提が違うだけなのだから世界史の先生がどう窘めても仕方ない。


この書き手は自分から「倫理を無視したとしても」の話を始めたはずが結局倫理に戻ってきている。 

わざわざ「近代の中枢的な思想先取りしている」「高校の世界史レベルでしか勉強したことない」という両者の台詞をエントリで引用*1した意味すらわからないようだ。
前者の台詞はヒトラーの合理主義を歴史の流れに位置づけたものだ。それゆえ講師の田島圭祐氏の台詞も「世界史」の知識について語っていると思うべきだろう。
倫理の話に戻っているのは、匿名記事が反論のために台詞を無視して論点を歪曲しながら、歪曲したことを数行で忘れた結果にすぎない。


前後して匿名記事は私の「収容や侵略や殺戮による収奪でいつまでも経済を動かせるわけもないだろうに」という文章に対して、下記のように書いている。

別にいつまでもやる必要はない。

邪魔な民族を一掃なり同化なり狭い自治区へ押し込めなりしたあとは

口を拭ってきれいな国のような顔をしてやっていけばいい。


アメリカの先住民虐殺は上手くいかなかったのか?

それが小論文を書いた高校生の主張だとするなら、思想を先取りしていたナチスドイツの後に、アメリカの先住民虐殺がおこなわれたことになる。
ここで匿名記事が意図せず示したように、収容や侵略や殺戮による収奪は限界がきていた*2第二次世界大戦で日本が「解放」する以前から米国はフィリピンを独立させる予定だったし、ナチスドイツにしても侵略で土地を確保できればユダヤ人をそこへ追い出す計画だった。匿名記事が「上首尾」な例としている現代中国にしても、収奪の手法はずっと巧妙になっている*3


そして匿名記事はツイッターで注目を集めていた田野氏も俎上にあげていた。

鍵RT ナチに限らず歴史修正主義寄りの回答を試験・レポートで書いて低い評価が付いた場合は回答の典拠とされたものに学術的に著しい問題があるから大幅に減点されています。しかし、そうした人たちは「教員の思想に反することを書いたから」減点されたのだという理由で納得するので話がややこしくなり

https://twitter.com/tanosensei/status/1358761277317926913

これは上のブログよりはるかに酷い。

そもそも「高校生の国語の小論文」と言う問題文の前提すら読めてない。

引用されているツイートは今件にかぎらない、明らかな一般論を語っている*4。おそらく先日に話題になったnote記事*5などが背景にあるのだろう。

この大学教授先生に比べると冒頭のブログの方がまだ話を理解している。

そう、女子生徒は「虐殺の有用性を肯定している」のだから。

これは「ガス室はなかった」「虐殺はなかった」みたいなナチス関連歴史修正主義者とはまた全然違う話だ。

こちらの反論先として引用しているツイートも、「ナチに関していうと例えば歴史修正主義寄りのことを論じるなら」と仮定として書いており、実際の小論文を特定的に指した文章とはいえない。
そもそも田島氏が過去にブログで同じ話をしたことをツイートするまで、小論文の具体的な内容は知られていなかった。「虐殺の有用性」は、反論先の引用ツイートとは時系列から考えて考察の対象ではなかったろう*6

いったい何の先生なんだよ。

田野 大輔(たの だいすけ、1970年 - )は、日本の社会学者。甲南大学文学部教授[1]。

あっ…

この匿名記事の察したしぐさから、逆に私もいろいろと察することができた。


そもそも匿名記事は「そもそもはどういう話なのか?」という小見出しの内容で、自身が発端を理解できていないことを露見している。

ちゃんと本を読む子が社会通念的にアウトな価値観をわざと誇示してくるのは遊びであって

彼女の国語能力に対して簡単すぎる課題だったのでそうやって遊んでいるのだろう。

ダメと言われたら即座にポリコレ100点の回答を出せるのだから倫理や価値観の相対化もきちんと出来ている。

発端のツイートで田島氏が「彼女はヒトラーのファン」と説明していること、ブログエントリで高校生の台詞として「ヒトラーは合理主義者で近代の中枢的な思想先取りしているんですよ」と記述されていることを匿名記事は無視している。
たしかに高校生は匿名記事が主張するように「遊び」として、虐殺を「ネタ」にしただけかもしれない。そう高校生の内心を憶測するコメントは他でも見たし、私もその可能性は考えている。
しかし、ここで問題になっているのは田島氏の説明に出てくる人物としての高校生だ。田島氏がツイートやブログのように高校生を説明し、それが難しい問題であると主張したことは、まぎれもない現実だ。この問題は高校生が実在しなくても関係ない。

*1:匿名記事の引用で欠落した引用枠を追加した。以降の引用の太字強調は原文ママ

*2:そもそもナチスドイツの場合は、収奪のために前借りしている状態なので、「口を拭ってきれいな国のような顔をしてやっていけばいい」と自己判断で収奪を停止することすらできなかったが。

*3:公式に少数民族の存在を認めはしているし、植民地的な同化政策や開発のための投資をおこなっている。hokke-ookami.hatenablog.comそしてそのような巧妙さを増した収奪をも、同時代に問題視できるくらいには世界が進んでいるのだ。

*4:「鍵RT」なので、おそらくツイッターで公開を限定している人物のツイートの引用だろうが、ここでは引用者として田野氏に一定の責任があるので、田野氏の文章として評することに致命的な問題はない。

*5:b.hatena.ne.jp

*6:実際に田野氏のツイートへのリプライを見ると、もとの小論文とは関係なくナチス政策を肯定する内容が多数ある。つまり小論文を直接的に指していないツイートが実際の小論文への反論にならないと主張しても意味がない。