法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも奇妙な物語 '20秋の特別編』

改変期恒例のオムニバスドラマ。今回は原作選定の方向性に時代の変化を感じたのが興味深かった。
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「コインランドリー」は、貧しいフリーターの若者がコインランドリーで洗濯している時、ふと願ったビールが洗濯機から出てきた。それから若者は次々に願いを口にするが……
WEB漫画雑誌の少年ジャンプ+に掲載された短編漫画『ロッカールーム』が原作。舞台を変えているためか最初は気づかなかったが、オチに既視感があったので、たぶん以前に読んでいたのだろう。
ロッカールーム - 鈴木祐斗 | 少年ジャンプ+
なぜか願ったものが何でも出てくるコインランドリーから次々に新たな美女が出てくるシュールな映像が楽しい。ロッカールームと比べて不自然さはありつつ、状況の異常さが出ている。
人当たりがいいだけの主人公がなぜかたまたま会話しただけの女性から好意をもたれるが、女性側も就職で弱気になっている背景はあるし、展開の不穏さを感じさせるので、御都合主義とは感じない。
結末も、出てきたものが1日で消える設定が最後に反転するオチは見おぼえがあったが、状況を主人公が理解するまで無駄な時間をかけず、急転直下で終わった印象はいい。
原作ではさらにオチをひとひねりして主人公が奇妙な事態におちいっていくのだが、ドラマではわかりやすさを優先したこともわかる。


「タテモトマサコ」は、別部署ではたらく恋人がプロポーズしてきた翌日に墜死した女性の恐怖体験。恋人の後輩という女性や総務の館本雅子が謎めいた言動をとるが……
平凡な中年女性のようでいて存在感のある館本雅子を、大竹しのぶが淡々と演じる。撮影の工夫だけで1カットで回想に入ったりと、演出も良かった。
物語は「タケモトマサコ」が実は善人で、主人公に協力する社員こそが真の敵……といった想像をしたが、すべて外れ。能力の発動のためとはいえ饒舌に真相を語り、背景もたいしたことがなく、敵としても薄っぺらに思えたところで急展開。
孤独を癒やすためラクガキとイマジナリーフレンド*1に会話する「タケモトマサコ」を見せて、「タケモトマサコ」をあやつり利用する別人格がいるのかと思えば、それは異常な孤独を育てていたという描写。
そこから記憶を消す能力がある敵に一矢報いるという、バトル漫画のような結末にむかう。ホラーからの転調はこのドラマシリーズで珍しくないが、敵の能力を逆用するアイデアに無理がなく、主人公のような一般人でも可能なガジェットでのみ達成しているので納得感があった。そうして「タケモトマサコ」の脅威がいったん消えつつ、その能力そのものは野放しになる結末も適度にホラーな余韻があっていい。


「イマジナリーフレンド」は、臨床心理学を学ぶ女性がヌイグルミのようなイマジナリーフレンドに出会う。おさななじみへのイジメを見て見ぬふりしている負い目が生んだのか……
たまたまTVアニメ『ハッピーシュガーライフ』と同時期に見ていたこともあり、真の敵が誰なのかという真相は想定できた。しかしシンプルなどんでん返しとして無理がなく、嫌いではない。
ただイマジナリーフレンドが物理的に敵を攻撃するような描写はイマイチ。あくまで主人公が無意識に反撃して、それを主観ではイマジナリーフレンドの行動のように見てしまう……という描写にしてほしかった。結末で明らかにされた情報からすると、実はイマジナリーフレンドではなかった……という設定なのかもしれないが、その伏線がまったくないのも困りもの。
後づけの姉妹ではなく、おさななじみの生霊がイマジナリーフレンドを演じていた……みたいな重い百合なら、無駄なくまとまったと思う。一応、イマジナリーフレンドと別離して今度は主人公が他者を助ける立場になる結末へつながったので、おさななじみの存在が無駄というほどではないが。


「アップデート家族」は、平凡な三世帯家族の家長が、いきなり家のアップデートを宣言する。すると家族の構成員がつぎつぎに変化していって……
こちらは「ジャンプルーキー」に掲載された新人の短編漫画が原作。「ジャンプ+」ともども、さまざまな短編漫画を掲載できて注目も集められる場として育っていることを実感させる。
アップデート家族 - ジャンプルーキー!
かつて注目を集めがちだった「モアイ」は、いかにも『アフタヌーン』的な主流から外れた作品が多く、技術力も一定以上の高さがあるため、逆に場そのものの幅がせまく感じられるようになったのと対照的だ。
ただ、ところどころのツッコミは良かったものの、全体的にギャグのテンポが遅い。アップデートされてしまった祖母を悲しむ描写も、たぶん原作は不条理な笑いをねらっていただろうに、半端に感動的な演出になってしまっている。
原作は視聴後に初めて読んだが、そもそも人情的に泣かせる場面がないスピーディーなシュールギャグ漫画だった。いくつかのギャグは同じでも元の母親は旅行していたりと、全体的にのん気な空気。
実写化ならではの良さといえば、主人公がアップデートされて二次元美少女キャラクターになるオチだけ。それも短い描写にとどめていて、味わう余裕もなくタモリの語りにうつってしまった。
もっとボケとツッコミをたたみかければギャグとして楽しかったろうし、家父長に都合よいアップデートだけがされる前半を風刺として深めることもできたろう。特に悪い改変ではないと思うが、ポテンシャルを引きださない実写化が残念。

*1:直後のエピソードが中心モチーフにしているが、意図的だろうか。