法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』第1話 超平和バスターズ

フジテレビ系列ノイタミナ枠で放映が始まった、長井龍雪監督と岡田麿里脚本によるオリジナルアニメ。
インターネット上で絶賛評を多く見かけて上がりすぎたハードルを越えてくれず、残念だった。秘密基地を創った経験のある田舎在住人として感情移入できる要素は多かったのだが、あまりにも計算されすぎていて、見ながら制作者の手腕ばかり気になってしまった。


とりあえず、主人公の少年のもとへ訪れた少女「めんま」を基点として、失われた子供時代への憧憬を呼び起こす作品としてしっかりしている。人物や背景の設定が目新しくないためでもあるが、説明台詞をさけながら情報不足にはならない。
唯一の非現実的な設定を持つ少女「めんま」が言動の可愛らしさでアニメらしい楽しさを作り出し、主人公が外へ出る興味をうながすと同時に、主人公を責めさいなむ過去であるところも良かった。物語の根幹が主題となる葛藤を、映像として、そしてキャラクターとして体現している。むろん少女自身は一貫して主人公を責めようとしない。それはクライマックスの回想で一貫している態度と示される。ゆえに主人公の後悔を内面的なそれとして際立たせる。
何より、進学失敗で引きこもりという挫折が誇張された主人公を軸として後悔を強く描くだけでなく、脇をかためる主要登場人物もそれぞれに過去とひきかえに成長した痛みを持っているところがいい。極端な主人公の状況に感情移入できなくても、共感できるフックが多く用意されている。そのフックの多さが、重層的に感情を呼び起こそうとしてくれる。
物語は基本的に予想されたことを順番通りにこなしていく。いや、「めんま」の正体を冒頭で早々に明かし、それを前提とした他者とのコミュニケーション不全描写で物語をつむいでいるわけだから、意外性で引いていく話では最初からない。主人公が一つ一つの再会で痛みを確認することが、そのまま視聴者への状況説明でもある。
それでいて最後には主人公の感情を受けて少女との目前の問題が解消するかと見せ、意外な展開がある。積み重ねてきた重さを一気にふりはらうほどではないが、肩透かしして重みを一瞬だけ忘れさせてくれる絶妙さ。問題の解消そのものではなく、全ての物語要素が出そろった出会いの瞬間を通じて、解消へいたる道筋を予感させる。次回への引きとして完璧だ。


初回はキャラクターデザインした田中将賀作画監督をつとめ、映像も通して良かった。細かい芝居作画もロケハン参考した情景も、細部まで隙なく物語に奉仕しつつ*1、映像単独でも見所ある*2
もちろん「めんま」の真相にかかわる描写も隙がない。そこにあるはずがないものを表現するにあたって、無意識に重みや衝撃を感じるような芝居作画に挑戦し、見事に成功している。何を見ているのか、あるいは何が見えないのかを目線で表現した表情演出も問題ない。
もう少し歪さか意外性、あるいはより広い社会の目線もほしかったが、少なくとも初回は良い内容だったと思う。古典的な設定を、手持ちのリソースを活用して無駄なく展開している点では、個人的に今期の他作品では『戦国乙女〜桃色パラドックス〜』と似ていると感じた*3

*1:主人公の名前が入った子供時代の玩具が、水を張ったバケツに打ち捨てられた冒頭から、暗喩表現を多用しながら画面がうるさくなることもない。

*2:地方都市らしく群集を描かなくていいおかげもあるだろうが、「めんま」の可愛らしい仕草にリソースを注げている。

*3:比べるとずっと安い深夜アニメではあるが、意外と異世界ファンタジー物として良く出来ている。主人公の馬鹿さ加減が制作者の反映ではなく、ちゃんと物語の必要性に従っていて、いわゆる物語のお約束にもきちんと疑問を述べることで内面あるキャラクターと感じさせる。第二話の六番勝負で能力の片鱗を見せつつ、まだ最終的には勝てないというバランス感覚も、似ていると感じさせられた。