クリスマスが近い朝、いつものように目ざめた少年キョンは、ハルヒという少女にふりまわされながら学園生活をそれなりに楽しくすごしていた。ハルヒは無自覚に世界を改変するほどの能力をもち、キョンをのぞく周囲の少年少女はそれを監視する立場だった。
しかし次の朝、いつものように目ざめたキョンの学園生活に少しずつ違和感がつみかさなっていく。そしてハルヒが座るはずの席に、そこにいないはずの少女が座った。変貌した世界をぬけだそうとキョンは奔走しはじめるが……
谷川流による同名小説が原作の、2010年のアニメ映画。シリーズの前後作品をTVアニメ化してヒットさせた京都アニメーションにとって、初の完全新作劇場作品。
2019年の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』にぬかれるまで単独アニメ映画として最長だった。座席回転数が重視される商業映画の人気作としては珍しい。
とはいえ物語の構成はTVアニメのひとまとまりのエピソードを連続させたようなつくり。主人公が自覚的な台詞を入れるように、異変が起きた世界と対比させるための通常の世界を描く場面が長い。ちょうど30分枠の初回クライマックスくらいの時点で主人公にとって驚愕の出来事が発生して、話が本格的に動いていく。
長いぶんだけ説明がていねいかというと、キャラクター説明や特殊用語はTVアニメを見たことを前提にしたつくり。内心が饒舌な主人公のおかげで見ているあいだに必要な説明は充分されてそうな気はするが、原作やTV版を知らない観客はハルヒが消えたかわりに別の少女が登場した瞬間の主人公の狂態などで感情的についていけない気もする。あくまで劇場版として楽しむべきなのだろう。
それでも原作の力もあるだろうが、主人公が変わった世界でいつもと態度が違う友人と出会っていくところはパラレルワールドならではのキャラクタードラマの面白味があった。主人公が変貌した世界を修正するクライマックスにたどりついてから、さらに世界を変貌させた原因と対峙するクライマックスがくる二段構えの構成で、後半になって状況を大きく動かしていくので飽きさせない。さすがに終盤は鑑賞側の身体的な限界も感じたが、休憩なしで一気に見とおすことはできた。
絵作りは映画らしくカットを割らず、人物の複雑な芝居をたっぷりと見せる。ロングショットを多用して全身をうつし、画面に圧迫感がない。モブもすみずみまで修正がゆきとどき、きちんと個性をもって動いて止め絵が目立たない。階段の昇降のように手描き作画で難しい動きを俯瞰で破綻なく見せたりする。衣服をできるだけ記号的に処理せず、人体の上にまとっているように作画していたことも冬らしさの表現として感心した。3DCGの活用は背景を動かす時と自動車くらいで、撮影効果のフィルターも抑えめで、現在になってみると真面目な手書き作画の良さが感じられる。
ただ、どこまでも高水準でいて印象は平坦。外で吐く息がモブにいたるまで白かったりと、技術的にできることは全力ですみずみまでやっているが、同時期のボンズやProductionI.Gとくらべると最高到達点はさほどではない。実直なスタッフが各役職でささえて全体を高度に統一させているが、上下のふれはばを大きくして突出した見せ場をつくることはしていない。たとえばクライマックスで部室内のグッズが増殖するイメージシーンは、グッズひとつひとつをていねいに作画したうえでスローモーに動かしているが、もっとアニメーターの個性にまかせたラフさでランダムに動かしたほうが映像としてはインパクトが出たのではないかと思った。
きちんとした絵でていねいに動いているし、本筋がはじまってからはずっと主人公にとって緊張感のある状況がつづいているので、画面を見つづけることはできたが。