法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

話数単位で選ぶ、2020年TVアニメ10選

特筆したい視点があったり、埋もれそうなエピソードを掘りおこす企画のため、各作品1話ずつで順位はつけない。

ドラえもん』地球製造法/マジックチャック/楽々バーべキューセットはラクじゃない
『織田シナモン信長』第4話 雨音は戦いの調べ ~始まりはいつも雨~
『22/7』#07 ハッピー☆ジェット☆コースター
デカダンス』第2話 sprocket
乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』第11話 破滅の時が訪れてしまった…後編
炎炎ノ消防隊 弐ノ章』第拾七話 少年よ、弱くあれ
ハイキュー!! TO THE TOP』第22話 ハーケン
おそ松さん第3期』第4話 一松ラジオ/コンビ結成/松代の罠
『体操ザムライ』第11話 体操ザムライ
ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第11話 みんなの夢、私の夢

年々リアルタイムでの視聴数が減っており、とりこぼした作品にも見るべきエピソードがたくさんあるだろうことが残念でならない。
話数単位で選ぶ、2019年TVアニメ10選 - 法華狼の日記
有志による集計が終わったので年内にアップロードする必要はないとも思ったが、以前と条件をそろえるために年が変わる瞬間までにラインナップだけは上げて、後日にスタッフと選定理由を追記。
ちなみに、こちらの個人ニュースサイトへ集計を移管したとのこと。以前と違ってブログ以外でツイッターからも集計しているが、今のところ昨年までと比べて参加サイトが少ない。あるいは捕捉漏れが多いのか。
aninado.com

ドラえもん』地球製造法/マジックチャック/楽々バーべキューセットはラクじゃない

新型コロナ禍で変則放映や再放送が目立ったが、この回は最後のショートアニメ以外は新作。
ミニチュア再現の楽しさと自然観察の面白味を描いた原作に、今回のアニメ化までに出てきた新説をアニメオリジナルで追加。生まれたばかりで熱い地球をさわろうとする原作描写に、スノーボール化して凍りついた地球をさわろうとするオリジナル描写のコントラストが印象的。変化していく生物の姿や、絶滅をひきおこす衝撃を充実した手描きアニメーションで描写したのも良かった。
もうひとつの新作は、前年にTVアニメ化されたばかりの『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』の設定の先駆となる秘密道具をつかって、知恵をめぐらす攻略ゲームが空き地で展開される。ジャイアンが絶対有利なルールを協力してかいくぐる展開がけっこう熱い。
hokke-ookami.hatenablog.com

『織田シナモン信長』第4話 雨音は戦いの調べ ~始まりはいつも雨~

まるで『ずんだホライずん*1の続編が始まったかのような劇中2.5次元。あまりの不意打ちに視聴しながら笑いどおしだった。
基本的には平和で単調で、驚きもなければ不快感も少ない、良くも悪くも無理をしない、ひまつぶしのような作品。
しかし、だからこそ瞬間最大風速がきわだつし、こういうエピソードがあったことを記憶しておきたい。

『22/7』#07 ハッピー☆ジェット☆コースター

お涙頂戴の難病物といえばそれまでだが、完璧なかたちでアニメ化。食中毒でレギュラーメンバーを倒れさせる導入から*2、いつもふざけているひとりにスポットライトを当て、過去と現在を対照的に見せていく。明るい難病少女と出会った時点で結末は見えすいているのだが、その過去を背景にしたキャラクターは予想外に現在のトラブルを楽しんでいく。
病院で泣け叫んで倒れこんだ壁に非常ベルがあり、その赤い光が少女の顔を照らす。ランニングで先頭を走る少女の頭上で、さらに先へ飛行機雲が飛んでいく。贈られた折り紙のハートを、握りしめる。そして復帰した仲間たちと鉢合わせした廊下は、カラフルなタイル絨毯でしきつめられていた……その時々の少女の心情を背景で隠喩する演出技法が決まっている。
劇中で歌うカラオケに「恋するフォーチュンクッキー」を選んで、その歌詞を物語の流れに重ねたのも印象深い。秋元康プロデュースだからこそ描けた物語であった*3

デカダンス』第2話 sprocket

最速放映から遅れて配信で視聴したがキービジュアルしか前情報をもってなく、まったくネタバレを目にしなかったので、1話の結末から2話のOP、そして設定説明までで本気で驚いた。
それでいて設定の驚きにたよらず、謎だけで引っぱりもせず、基本的な設定と人間の関係性をすべて説明したことに感心。情報を出ししぶるのではなく、きちんと全体を見せてこそ、ひっくりかえした時の驚きが大きい。それをスタッフが理解している貴重なオリジナルアニメとして、象徴する第2話を選んだ。
きちんと基礎となる設定を先に視聴者に説明し、キャラクターのドラマをつみかさねたから、箱庭のような作られた世界*4でも住人には大切な社会ということが実感できる。

乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』第11話 破滅の時が訪れてしまった…後編

老若男女を区別しない朴念仁ハーレム物といえばそれまでで、設定の多くも異世界転生物で珍しくないバリエーションにとどまる。しかし中途半端にてらいを入れず、主人公の魅力を押しだすことで楽しく見られた作品。
hokke-ookami.hatenablog.com
それでも主人公が出会う人々を惚れさす展開が反復するだけでは、連続ストーリーとして単調になりかねない。そこでクライマックスに主人公のルーツを確認し、1クールのTVアニメとして見ごたえある起伏をつくりだした。異世界の戦争が地球にもちこまれる『聖戦士ダンバイン』を思い出させる構成の妙。
成長する必要もなく周囲を引っぱる主人公の視点に、引っぱられ追いかけることを選んだ人物の視点を挿入し、物語がダイナミックに動く。異世界転生で別離をしいられた元世界の泣かせるドラマとして、能天気なジャンル作品のアクセントにもなっていた。
思い返せば、先行してTVアニメ化された『慎重勇者』も同じように11話で主人公のルーツを描いて、まとまりが良かった。問題を解決する途中で最終回をむかえる異世界転生TVアニメで、これから定石的な構成として定着していくかもしれない。

炎炎ノ消防隊 弐ノ章』第拾七話 少年よ、弱くあれ

シリーズ前半の、滅びたとされ遮断してきた外部に出て見聞を広め、ひるがえって自分たちの立つ社会へ疑念を向けるまでは定番の展開。しかしそこからの発展で期待をこえてくれた。
強いことと正しいことが、あえての皮肉だとしても、肯定的に一致しがちな少年漫画。そこで弱者をいたぶることに愉悦する外道が、強さを求められて無理をする子供の弱さを肯定し、結果的に救ったエピソードとして独特の良さがある。
もちろん、この展開そのものが皮肉めいているし、ある意味では共依存的な関係がはじまっただけでもある。しかし社会の競争から降りるにはここまで特異な関係性が必要なのだ、という風刺劇ともとれる。

ハイキュー!! TO THE TOP』第22話 ハーケン

新型コロナ禍でアニメーターやスケジュールが確保できなくなったのか、急に作画が粗っぽくなったが、しかしスポーツを描写するには魅力的な荒っぽさでもあった今シリーズ。
ずっと押されつづけてきた主人公チームの悪い流れを、主人公のレシーブが断ち切る。そのインパクトの瞬間、ぎりぎりまで絵を崩したからこそ出てくる、限界を超えたことの説得力。
そして高々とあがったボールからつづく長いラリーは、最終的に敵チームに攻略されてしまう。しかし休憩において、立ちなおれなくなったチームメイトに対し、主人公はどこまでも上を向いていた……
原作の展開をまったく知らなかったので素直に驚いたし、主人公の活躍ではなく主人公の人格そのものが再起につながったことにも感心した。反能力主義とはいわないまでも、勝つことがスポーツのすべてではないと確信できる一瞬が、たしかにそこにあったのだ。

おそ松さん第3期』第4話 一松ラジオ/コンビ結成/松代の罠

自作自演ラジオの狂気ぶりには、このシリーズでひさしぶりに大笑いした。ひねりもなく終わらないボケにツッコミを入れるつづけるだけで、アニメでなくても物理的に可能なことしか起きない室内劇だからこそ、キャラクターの異常性がきわだっていく。
次のエピソードで一転して地下アイドルの百合アニメがはじまったのも、2020年終盤の百合アニメのラッシュを象徴するようで、憎まれ口を叩きあうほど深まる関係が美しい。
シングルマザーのシスターフッドという人間関係がシリーズ当初の社会風刺のエッセンスを感じさせたし、単独作品として意外なほど完成されていた劇場版*5で興味深くも一瞬で終わった描写のフォローとしても嬉しかった。

『体操ザムライ』第11話 体操ザムライ

1話最後の「しませぬ」にはじまり、2話の練習迷走から若者との約束を白々しくやぶる3話、合同合宿で技ひとつの成功に喜んで勝負中断、ただの日常的な動作でクライマックスに怪我……といったスカした描写をつづけた最後に、ひとつの芯をもった演技を描ききった。
同じMAPPA制作のオリジナルスポーツアニメ『ユーリ!!! on ICE』もそうだが、国際競技スポーツで自国選手を主人公として賞揚する難しさに向きあった作品だからこそ、最後に正面からの勝利を描けたという感じだった。
フィジカルを物理的に争うだけではない演技という側面もあるからこそ、「老害」と罵倒までされた主人公が後進へ道をひらく。その意味が競技の解説者によって語られる構図も、ひとりの行為が世界を拡張する物語を地味に象徴していた。

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第11話 みんなの夢、私の夢

すでに1クールずつ4作品がつくられてヒットし、キャラクターとかさねわせた声優が紅白歌合戦に出場し、作品自体がNHKでも再放送するほど国民的アニメの位置に押しあげられたシリーズ。
多くの人が思ったことだろうが、そのようなシリーズで今回のような重い想いを明確に描いたことがすごかった。もちろん初回からの一貫したつみかさねがあってこそだが、シリーズでは珍しい背景美術による心情隠喩や、ランニングする上原歩夢が街路樹ごしに高咲侑を目撃するカットの撮影の完成度など、第11話内でも結末までの道筋をはっきりつけている。コンテ演出を担当した韓国出身のアニメーター伊礼えりには今後も注目したい。
また、プロデューサーやマネージャーにあたるキャラクターひとりに、アイドルひとりの独占欲が向けられることをアニメで描いたこと自体も出色。外伝作品としてシリーズの特徴だったチーム競争はおこなわず、ソロライブをひとりひとり演じる同好会にとどめた今作だからこそ可能だった展開だ。メインキャラクター同士は対等なアイドルな過去シリーズや女児向けアイドル作品では困難な展開であるし、二次創作では多く描かれる『アイドルマスター』も公式のTVアニメでは意識的に排除されてきた*6
協力が称揚されがちなアイドルアニメにおいて、「ひとり」の上原が「みんな」を拒絶する意思も珍しい。最終的に否定されるにしても、いやだからこそ主人公とは思えないほどネガティブを徹底できた孤高性。ソロで頂点を競いあう『アイカツ』シリーズにも似た味わいがあるが、より深く踏みこめていたと思う。


2020年では他に、趣味アニメの潮流のなかでモチーフと密接な環境破壊と主人公たちのケジメを1話かけて描ききった『放課後ていぼう日誌』第9話*7、デスゲームなんてアクション作画が楽しければそれでいいんだよな『グレイプニル』第13話、むらた雅彦が演出家として全原画までコントロールした回とヒロインの底知れない悪意が主人公をうちのめす最終回に唖然とした『神之塔 -Tower of God-』第四話と第十三話、野球技術はあるのに無気力な先輩少女ふたりの秘密がカタルシスを生んだ『メジャーセカンド2期』17話、等が印象に残った。
ただ、乙女ゲーム原作っぽくも昔懐かしの都市伝説的な現代異能を誠実にアニメ化した『恋とプロデューサー~EVOL×LOVE~』や、スポーツアニメが成立するギリギリの作画リソースでも充分に楽しかった『いわかける!- Sport Climbing Girls -』*8、先行配信などと映像がさしかえられて制作が苦しそうなところで野球の動きは魅力的に見せようとした『球詠』等の、突出した話数がなくて全体が埋もれそうだが見どころはある作品が2020年は多かった気がする。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:この導入のバカバカしさが、難病物そのもののバカバカしさを自覚的に描いていると考えるのはうがちすぎか。

*3:全体的にはアイドル活動が少女を自由にするという世界観が都合よすぎて、特に水着回などは吐き気がするほど嫌悪感があったが。『AKB0048』等と同じく、秋元康にあたる位置づけの権力が、責任をとらないシンボライズされた非人間という設定も感心しない。

*4:仮想現実というより動物園などが近いか?

*5:hokke-ookami.hatenablog.com

*6:SFアニメにおきかえたメディアミックス『アイドルマスター XENOGLOSSIA』は、芸能アイドルアニメではないので、ここでは除外。

*7:こちらの釣り雑誌の監督インタビューで、作品全体で押しつけにならずマナーを組みこむ努力も言及されている。 web.tsuribito.co.jp

*8:職業としての安定を重視して無理なクオリティを目指さないことを経営者が明言しているつむぎアニメーションが、動画などでクレジットされていることも象徴的。 nanmoda.jp