法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』

宇宙パイロットになる夢をもっていたハンは、ギャングが支配する惑星を脱出しようとして、仲の良い女性キーラとはなればなれになる。
孤独なためソロという苗字で登録され、帝国軍にもぐりこんだハンは、戦場で兵士のふりをして盗みをはたらくベケットに出会う。
ハン・ソロは獣人チューバッカとともに逃げ出してベケットの手下になるが……


2019年に公開されたEP9*1に先んじて、2018年に公開されたシリーズ前日譚。金曜ロードショーの本編ノーカットで視聴した。
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監督を担当したのは、『アポロ13』から『ダ・ヴィンチ・コード』まで大作をそつなくリアリティを保って映像化する職人ロン・ハワード
脚本を担当したのは、シリーズのEP5とEP6そして時代をへてEP7に参加したローレンス・カスダン。オリジナルスタッフのひとりとして作品世界を拡張した。


争奪対象を高エネルギー燃料にしぼることで、その劇中における重要性や危険性がわかりやすい。キャラクターの異なる思惑も、そのアイテムを中心に動いていって、娯楽作品としてよくまとまっている。
いかにも『ブレードランナー』的な未来都市アクションから、帝国軍で泥にまみれた戦争映画のような戦い、『スノーピアサー』のような雪上列車バトル、鉱山のせまくるしい坑道に潜入しての反乱扇動……次々に変わる舞台が見ていて飽きさせない。いったん見せた場所や失敗を反復することで、主人公の成長や機転も自然につたわってくるし、世界の連続性も感じられる。
強圧的な支配構造にしいたげられた弱者の視点で一貫していることも、対立構図を明確化することに成功している。軍人として支配構造の末端で侵略に加担する者も、構成員ひとりひとりは意外と親身だったり人間臭い。犯罪組織の関係者も、より上位の存在におびえながら成功失敗を気にするし、その命令下にある犯罪者は逆転の機会をうかがう。


印象的だったキャラクターはドロイドのL3-37だ。人格や声は女性だが、姿形は配線などがむきだしな無骨な機械で、ドロイドの権利と尊厳を語って同胞を鼓舞する。人間の主人たるランドが自分への恋愛感情をもっていると思いこみ、それに困ってみせる生真面目ぶりが笑える。

しかし、薄汚れて巨悪と小悪に満ちた世界から滑稽なまでに浮いているL3-37が、信念を叫びつづけることで重労働をしいられている鉱山の反乱にむすびつく。完全に壊れた機械となりはてたL3-37は、ランドに抱かれて生身の肉体を必要としない愛でむすばれる。もはや古典となった手塚治虫を思わせつつ、さらに新しい。
古臭い世界観で先進的な思想をかたる浮きっぷりが笑えて、しかしつらぬきとおす姿を見れば、いずまいをたださずにいられない。いわゆるポリティカル・コレクトネスが定着したからこそ、このような変化球を作れたのだろう。
物語全体も、古典的な英雄譚のようでいて、美女を獲得して勝利する定型ではない。終盤のハン・ソロは、とりもどそうとしていたキーラと別の道を選び、決別するためにベケットと対峙する。異なる立場と思惑をもって動く人々の中で若者もまた自立していく。
制限されつつも複数ある選択肢のなかで、それでも何か大切なものを守ろうとしたからこそ、ハン・ソロはひとりのヒーローとなったのだ。