ドラえもんチャンネルで一週間ごと三作品ずつ無料公開される藤子F作品で、今週に選ばれたひとつがSF漂流劇『宇宙船製造法』。
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宇宙船の故障により無人惑星に不時着した少年たちが、疑似社会を構築しながら生存のために衝突をくりかえすドラマだ。
以前にアニメ版の感想*1でも簡単にふれたことがあるが、今回の無料配信を機会に少し書いておきたい。
もちろん多くの感想で指摘されるように、ドラマの中心にあるのは主人公の小山と、リーダーとなる志貴杜の葛藤だ。
[B! 漫画] 宇宙船製造法(SF短編)
理想主義者として帰還をあきらめられない小山と、生存のため合理主義者として自他を律する志貴杜。たがいを尊敬して協力しつつ、目標の対立をかかえたまま、物語は結末になだれこんでいく*2。
しかし志貴杜がリーダーに選ばれる前に、好き勝手にふるまい他人に命令する堂毛という少年がいた。わかりやすく乱暴な支配者として、望まず独裁者になるしかなかった志貴杜と対比される。
それでは堂毛がただの生存の障害かというと、そうではない。あたかも文明の通過点のように、力で秩序を生みだす存在として一貫して動いている。
わかりやすいのが最初の志貴杜との衝突だ。どちらがリーダーにふさわしいかと称して殴りあいをしかける。ここで堂毛は銃をもっているのに、あえて子分の甲森へあずける*3。
力が強い者が支配者になるべきという信念を堂毛はもっているのではないだろうか。支配者として利益を独占するが、そこで子分にわけあたえもする。序列にしたがって利権を分配しているのだ*4。
反乱に対しては銃をもって制圧しようとするが、銃を小山にうばわれ、集団の革命でたおされる。そして一週間独房に入れられた後は、集団の一員としてふるまうようになる。
それどころか過去の子分もふくめて少年たちが重労働に不平不満をもらしあう時、新リーダーの志貴杜とともに率先して働きつづけるようになった*5。
力で負けたことを認めた後は、序列の下でふるまうことを選んだようにも見える。自身の信念に準じるかのように。
やがて小山と志貴杜の対立がいきついた結末で、堂毛は小山の信念を肯定した*6。
文明の力の象徴たる銃がリーダー交代で移動して、それぞれの使いかたを見せていく。そのふるまいを見れば、意外と堂毛は志貴杜に通じるところもある。
もちろん堂毛がリーダーとして正しく行動したと思える場面はない。しかし未開の地における野蛮な王として、君臨するに足る器はあったのだ。
藤子不二雄少年SF短編集 (第3巻) (てんとう虫コミックス―別コロ版)
- 作者:藤子・F・不二雄
- メディア: 新書