法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

遊女リンの描写を増やした『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、遊郭の制度的な監視をアニメオリジナルで強調している

雑誌で読んだ対談だが、公式サイトで全文公開されているので、その紹介をかねて該当箇所を引く。
ikutsumono-katasumini.jp
2018年に亡くなった高畑勲監督は、2016年に公開されたアニメ映画『この世界の片隅に』をくりかえし見て、改善案なども語っていたという。

簡単に言うと、すずさんがいかにボケた人だったとしても、普通の主婦が遊廓に躊躇なく足を踏み入れることはないはずだと。そこをしっかり描かなくちゃ、と。

そのように人づてに聞いた片渕須直監督は、尺の関係で削っていた人物の出番を足したりした2019年公開の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』へ反映させた。

今回はただヘラヘラと遊廓に踏み入らないようにしようと、1カットだけオリジナルの要素を描き足したんです。2度目にリンさんに会いに行くとき、遊郭の大門の前に海軍の衛兵が立っている。それを気にしながら、すずさんも今度はそこがどういう場所かを認識しつつ、居心地悪そうに入っていくという場面にしました。つまり、入口にはっきりシステムとして「脱走を防ぐ人たち」が設置されていて、この町が官民連携の場所であるという画を入れたんです。

片渕監督自身も「そこまで意味の伝わるカットにはなっていない」と語るくらいのアレンジで、気づく人が気づけばいいくらいの抑制した描写だ。
しかし別のアニメ作品が「遊郭」を舞台にしていることが良くも悪くも話題になっている今、あらためて興味深い逸話だと読み返して思った。

映画秘宝 2020年 01 月号 [雑誌]

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  • 発売日: 2019/11/21
  • メディア: 雑誌

アニメ化のアレンジで登場するのが男性の演出家だけで、対談の聞き手も男性の映画評論家であること、そして掲載された雑誌が『映画秘宝』であることは、現在また別の文脈も生まれているが。