法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

わざわざ中国共産党が発掘しないことをかんぐる人々は、南京軍事法廷で死体の発掘をしていることすら知らないのだろうか

死体が出てこないという古典的な詐術を意識してか、「ニュースの社会科学的な裏側」が死体を発掘すべきと主張している。
南京大虐殺論争に決着をつけるためのココ掘れワンワン

自説を裏付けるための発掘調査が出来るのに、中国政府がそれを実行していない今の状態では、中国政府が主張する南京虐殺事件がでっちあげと言い出す人が出てきても不思議は無い。

もはやアパホテルニュースリリース*1とすら関係ない。
専門の歴史学者はもちろん、もはや両国政府ですら死体の有無で左右されるような見解の違いはないのに、わざわざ死者をほりおこす意義がどこまであるだろうか。


なおかつエントリタイトルで書いたように、終戦直後の南京軍事法廷で埋葬死体をほりおこす調査はおこなわれている。
南京軍事法廷判決

当法廷が中華門外雨花台・万人坑など合葬地点について墓地五か所を発掘したところ、被害者の死骸・頭蓋骨数千体が出てきた。司法医師潘英才・検屍官宋士豪などが遺骨を調べたところ、その多くに刀で切られたあと、 銃弾の命中したあと、あるいは鈍器で殴られた損傷などがあり、書類中の記入済みの鑑定書は信頼できるものである (本法廷の調査記録および京字一四号証拠書類を見られたい) 。

この南京軍事法廷の見解をそれなりに受けいれて、戦後日本は再出発した。死体がないのに中国共産党が事件を捏造したかのような憶測は、あらゆる意味でなりたたない。
さらに上記ページで判決を紹介しているyu77799氏は、近年も都市開発にともなって死体が発掘された報道をいくつかツイートで紹介している。

そもそも日中両軍の戦闘がおこなわれていた地域なのだから、虐殺被害者*2であろうとなかろうと死体がないわけがないということもツイートしている。

もちろん埋葬記録のすべてが虐殺による死者と確定することは難しい。しかし時間がたって確認が困難になったという批判は、長い占領時にまともな調査をせず、戦後も資料を隠滅しつつ裁判を受けいれ、なのに折を見ては蒸し返そうとする加害国側にまず向けられるべきだろう。


前後するが、「ニュースの社会科学的な裏側」は日中共同研究を引用しながら、捕虜虐殺しか共通理解されていないかのような意味不明な主張もしている。

P.271を見てみよう。

日本軍による虐殺行為の犠牲者数は、極東国際軍事裁判における判決では20万人以上(松井司令官に対する判決文では10万人以上)、1947年の南京戦犯裁判軍事法廷では30万人以上とされ、中国の見解は後者の判決に依拠している。一方、日本側の研究では20万人を上限として、4万人、2万人など様々な推計がなされている。このように犠牲者数に諸説がある背景には、「虐殺」(不法殺害)の定義、対象とする地域・期間、埋葬記録、人口統計など資料に対する検証の相違が存在している。

捕虜の大量処刑はコンセンサスがあるようだが、市中で住民を大量虐殺したかは全く定かではない事がわかる。

いったい引用内引用のどこに住民虐殺のふたしかさを示す表現があるだろうか。
実際に日本側論文のPDFファイルから該当箇所を確認すれば、引用された直前に確定的な記述があることがわかる。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/pdfs/rekishi_kk_j-2.pdf

しかし、日本軍による捕虜、敗残兵、便衣兵、及び一部の市民に対して集団的、個別的な虐殺事件が発生し、強姦、略奪や放火も頻発した。日本軍による虐殺行為の犠牲者数は、極東国際軍事裁判における判決では20万人以上(松井司令官に対する判決文では 10 万人以上)、1947年の南京戦犯裁判軍事法廷では30万人以上とされ、中国の見解は後者の判決に依拠している。

どう読んでも、「一部の市民」に対する虐殺があったことを日本側も認めている。
南京の人口を「諸説あるわけだが、15万人〜30万人と幅を見て考えれば参考にはなる」と書いているところもそうだが、id:uncorrelated氏は相手を否定する時にかぎって根拠を示さない。

*1:陰謀論についてはアパホテルによる歴史認識を謝罪しない文がちょっとすごい - 法華狼の日記で、都市人口については南京の人口が20万人から25万人に増えたから30万人も虐殺されていないと主張する人々は、5万人も増えたことをどう考えているのだろう - 法華狼の日記で、それぞれ事実関係以前の理屈のおかしさをとりあげた。

*2:ただ、被侵略側に立てば、戦闘に近しい状況の兵士の死も虐殺にふくめるべき、という考えもある。