法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』とうめい人間目ぐすり/エレベーター・プレート

原作付きの二本立て。3DCGアニメ映画の宣伝はつづいているが、全体としては番組フォーマットが通常にもどった印象がある。


「とうめい人間目ぐすり」は、のび太が透明人間の小説をスネ夫から借りようとしたところ、ジャイアンに横取りされてしまう。たまたま来ていたドラミちゃんの秘密道具でのび太は透明になるが……
伊藤公志脚本、氏家友和コンテ。もともと『ドラミちゃん』として発表されて単行本収録時に修正されたエピソードを、最初からズル木まで消してドラえもんも登場するようにアレンジした。
人間が透明化する原作発表時でも古典的なSFを、そつなく映像化。ズル木のかわりにスネ夫を登場させたため、のび太に本を貸す珍しさに少し違和感があったくらい。
生物学的な知識を引いて子供向けに生物の透明可能性をそれらしく説明する知的さが、いかにも『ドラミちゃん』らしい優等生ぶり。今回はドラえもんも中期以降で見せるような知識力でサポートする。
放映する季節にあわせて冬の寒さに裸の透明人間がふるえたり、雪に足跡がついたりするアニメオリジナル描写も気がきいている。
映像面では冒頭のモノクロで描写された透明人間劇が目を引いた。古典映画*1をアニメで再現している面白味もあるし、あえて古さを強調する映像でシチュエーションの古さが新しい映像から浮かんでしまう問題をふせいでいる。


「エレベーター・プレート」は、家の鍵をなくしてしまったため、二階から入るため秘密道具を出す。離れた場所で上昇したので距離があったが、ドラえもんは迷わず空中に足をふみだす……
脚本は鈴木洋介で、最小限のアレンジを入れつつ原作に忠実。そして2020年は再放送ばかりだった寺本幸代コンテの、2019年2月*2以来の待望の新作。
小さなプレートから落ちないようドラえもんにしがみつき、空中に出る時もおっかなびっくりなのび太の芝居をじっくり描写。安心してからは広い空間をたっぷり楽しむ。
空中なのでキャラクターの足より下から見上げたり、屋根をなめるカメラワークで奥行きを表現したり、カットのひとつひとつが映像としてプリミティブに楽しい。間近で見る信号機の大きさに驚いたり、ジャイアンをあえて挑発して木に登らせたり、原作から時代がたって二階や三階ではアパートにつきあたったりと、オリジナル描写も自然で気がきいている。
前半につづいて五月女有作が演出処理しているためか空中なのに足元に影ができるような演出ミスはあったものの、何もない空中を平面的に走り回る映像の奇妙さを存分に味わわせてくれた。パースの正確さなど、アニメ制作会社の地力があってこその映像でもある。

*1:1933年版は意外と派手なミニチュア特撮が良かった。影響を受けた日本版の感想を書いたことがある。 hokke-ookami.hatenablog.com

*2:hokke-ookami.hatenablog.com