法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『透明人間現わる』

透明薬を発明した老博士が行方不明となり、ふたりの弟子の一方も姿を消す。やがて透明人間による犯罪が始まるが……


公職追放されていた円谷英二を特撮に呼び、1949年に大映でつくられたモノクロ作品。1933年に映画化された『透明人間』からの影響が濃く、たしかに似た描写が多いが、ストーリーはまったくのオリジナル。
透明人間現わる : 角川映画
原案としてデビューしたばかりの高木彬光が参加していることも興味深い。そのためか、特殊な科学を起点として状況と世界観を拡大していくSFらしさが弱く、特殊な科学を制限として状況と社会観を構築していくミステリらしさが強い。
特に、透明な肉体を包帯でごまかすという定番を、透明ではない人間が透明人間のふりをするトリックに活用しているところがいい。いかにもミステリらしい入れかわりを、敵味方がうまく活用してかけひきしていく。拉致された老博士の発言を誤解させて弟子に透明薬を飲ませる場面も、よくできたコントのような楽しさと、気づかない弟子の哀れさが印象的だった。
透明になることで人間関係を失っていくという比喩的な展開や、顔を隠すことで性差も隠されていく要素など、教訓的なテーマも意外と悪くない。


ただ目当ての特撮は、残念ながら期待ほどではなかった。技術的にも1933年の海外作品と同じくらいか、下手すると劣っている。
先述のように敵味方の騙しあいが物語のポイントであるため、起こされる事件のスケールが小さく、大規模な特撮が必要とされない。当時は評判になったらしい合成のたぐいも、今となっては合成マスクの切り抜きの雑さが気にかかる。ネズミを透明化するオーバーラップも手のずれのせいで露骨。
良かったのは、抒情性ある結末くらいか。何もないところに足跡だけできる特撮には色々な手法があるだろうが、まさかそれが海までにつづくとは思わなかったし、浅瀬の水中に死体がにじみでてくる演出は技術的には難しくなくても効果は高い。