法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season19』第4話 藪の外

いきつけの小料理屋から、芸者時代の後輩を「怨憎会苦」から救ってほしいと特命係はたのまれる。後輩芸者は15年前に性的暴行未遂にあい、その加害者が出所してつきまとっているらしい。
特命係がしらべていくと、後輩芸者の得意客の若手社長が、出所した加害者と接触していることがわかった。しかし加害者が殺害されたという情報が入ってきて……


前シーズンから「花の里」にかわる特命係のいきつけとなった小料理屋「小手毬」。客がいなくて趣味のように開いている小さな店で、森口瑤子が演じる女将の小出茉梨も特命係の会話を軽々しくあつかい、あまり登場の必然性を感じなかった。
これならば前シーズンの途中で冗談半分に語られたゲイバー「薔薇と鬚」にしたほうが楽しかったのではないかと思っていたほどだ。そちらはそちらで別の問題もありうると感じていたが……
『相棒 Season18』第18話 薔薇と髭との間に - 法華狼の日記

しかし約十年たって変わらないゲイ描写は良いのかどうか悩む。劇中で提案されたように花の里の代替としてゲイバーを使う展開は面白そうだが、より慎重さが要求されるだろうなとも思う。

それが今回、小料理屋の人間関係から事件に首をつっこむこととなり、女将に誘導されるように特命係が事件を解決していく。杉下の元妻として対等に会話した「花の里」の初代女将とも、何度も特命係の世話になった元犯罪者の二代目女将とも違う、超然として状況を制御する人物像が立ちあがった。
「暗黒微笑」というスラングが似合いそうなキャラクターで、なるほど有力者ともコネクションがある元芸者として、これからどういう方向で特命係とかかわっていくかがイメージできるようになった。
もっと早くこういうエピソードがほしかったところだし、むしろこういうエピソードの後に特命係のいきつけとなる順序が良かったと思うが、遅ればせながらドラマ全体にとって有意義な回だったと思う。


本筋の事件そのものも水準的によくできていた。人間関係がせまくて15年前の因縁しかないため、もし2時間ドラマであれば平凡だが、1時間ドラマとしては密度が高い。必要充分に登場人物をつかいきって事件の構図を二転三転させていく。
15年前の事件発覚の経緯に別の犯罪をもってきて、その犯罪から時間をかけて変化していった人間模様も面白い。被害者は過去の事件にとらわれたままなのに、加害者は良いようにも悪いようにも変われることが印象的だ。


ただ、特命係が単身で殺害現場に入って、凶器のカンザシを発見した経緯には首をかしげた。鑑識が入っているなら見逃すとは思えない場所にあり、そもそも通報された殺害現場に誰もいない情景に違和感しかない。
ひょっとして、新型コロナ感染をふせぐためにエキストラを密集させにくい結果だろうか。今回は鑑識が調べる場面が最後まで存在しない。そう思うと、性的暴行の加害者と若手社長の会話が、正面からむかいあっていないことも飛沫をさけるためではと思えてくる。
いくらなんでも女将の小出が加害者の殺害まで先に知っているのはやりすぎではないかと思ったが、それも脚本段階では情報をまわす役者などが登場する予定だったのかもしれない。
あくまで想像だが、多人数を描く必要がどこかで必ずある刑事ドラマは、新型コロナ禍を抑えこむまで過去のような表現は難しくなりそうだ……