法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season19』第17話 右京の眼鏡

新居から向かいのマンションを見ていた青木は、入居者のひとりが一度も外出しないことに不審をいだく。そこで特命係に監禁事件ではないかと主張するが……
一方、一家は殺人事件の容疑者をつかまえられないでいた。高級眼鏡メーカーの女性社長が三ヶ月前に心臓マヒで倒れ、代理をしていた女性専務が撲殺された事件だ。
目撃者である社長の次男によると、現場で長男が金庫を開けていたという。その次男は何か野心に燃えているらしいが……


神森万里江脚本。ヒッチコック監督の映画『裏窓』を思い出させる導入から、杉下右京の眼鏡愛好が爆発する物語がはじまる。
ロンドンの眼鏡技術について語ったり、杉下がいつもかけている眼鏡もロンドン時代にオーダーメイドしたものだと明かされたり。
職人にオーダーメイドをたのんで、測定のために3DCGスキャンで再現された杉下の顔面が動く映像なども地味に楽しい。


青木の感じた不審については調査にむかってすぐ真相が判明するし、もうひとつの眼鏡メーカー事件と関係していることはあからさまだが、そこで明らかになる経緯と構図が意外と良かった。
まず眼鏡メーカー事件を報じる雑誌を監禁者がよく読みこみながら買わなかった謎。事件の情報が気になって読みこんでいるなら買えばいい。アパートに即金で入居したなら資金不足とも考えにくい。その真相は、逆に事件の情報を監禁対象から遮断するためだった。
そして次男と長女が母親である社長を監禁したのは、まだ心臓に負担をかかえた母親を事件の取材攻勢などから守るため*1。また別の映画『グッバイ、レーニン!』を思わせる状況が楽しい。別室に隔離されている社長が杉下に声をかけたことにも、隠しごとに気づいていて外部と接触しようとした社長の真意が隠されていた。


殺害の瞬間を目撃していたわけではないので、長男が真犯人ではないとは予想できる。瞬間を目撃したと主張しないことから、逆に次男も真犯人ではないだろうと推測できる。
しかし逃走していた長男の真意と、隠れていた場所に少しひねりが入っていて、いろいろな意味で真犯人とすれ違う構図になっていることも悪くなかった。
今期で何度か不自然さを感じた鑑識の見落としも、今回はまぎれこんだサイズも場所も理解できる部類。
そもそも動機が完全なかんちがいという真相のマヌケさに目をつぶれば、謎解き刑事ドラマとして標準的によくできた回だったと思う。

*1:新型コロナ禍で撮影が制限され、取材攻勢を描写できない状況を逆用したのかもしれない。そう思えば、人間関係の設定を序盤にホワイトボードで説明しただけだったのも、理解しづらく記憶しづらいが許せる。