法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『オーシャンズ12』

伝説的な大泥棒、ダニー・オーシャンは妻との人生を楽しんでいた。しかしそのために仲間と盗んだ1億5千万ドルを、3千ドルの利子をつけて返すようにラスベガスの富豪から脅される。しぶしぶヨーロッパへ盗みへ向かうオーシャンたちに、別の因縁が待ち受けていた……


オーシャンズ』シリーズ2作目として、2006年に公開。スティーブン・ソダーバーグ監督以下、1作目のスタッフによる直接的な続編。

オーシャンズ12 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2010/04/21
  • メディア: Blu-ray

ジュリア・ロバーツ演じるオーシャン夫人がジュリア・ロバーツに変装して盗みの対象に接近する展開や、そこにからんでくる芸能人ブルース・ウィリスブルース・ウィリス本人が演じるメタな遊びは面白かった。
残念ながらジュリア・ロバーツにもブルース・ウィリスにも思いいれがないので、楽屋落ちとして楽しむにはいたらなかったが、ビッグネームがならぶ作品ならではの楽しい遊びではあった。
オーディオコメンタリーによると事務所はジュリア・ロバーツのキャリアを傷つけかねないと懸念していたそうだが、監督は1940年の映画に先例があることを指摘してかわしたという。


しかしメタな遊びは部分的。全体としては1作目で感じた前半のだるさは改善せず、後半の驚きは消え去っているという期待外れの作品だった。
『オーシャンズ11』 - 法華狼の日記

足を引っぱる若者もいて、その失敗が後々までトラブルの種になる展開も安易に感じた。

しかしクライマックスで明らかになるトリックはよくできていて、最後まで見た感想としては最新作よりも好みだった。

新たな盗みにせまられるのが暴力的に要求されたからという導入からして、知恵比べのおもしろさがない。ヨーロッパにいる元恋人のイザベル刑事との因縁なども、予想の範囲内を超えない*1
ランダムに動くレーザーセンサーをライバルの怪盗がくぐりぬけた方法が、複雑な動きで踊るようにレーザーをよけきったという描写も、引っぱった謎の答えとしては安易きわまりない。『ルパン三世』の短編のように謎かけしてすぐ答えを見せたなら許せるが、ダンスのようなトレーニングをしている風景をさしこんだだけでは伏線として成立しない。
オーシャンと仲間たちが危機を脱した方法が、どれも自分たちの親的な存在に助けてもらったという結末も、さらに安易きわまりない。答えとしてつまらないだけでなく、メインキャラクターの全員が独力で何もできない存在になったという、ドラマとしての難点もある。兄の古い仲間に裏で別の仕事もやってもらっていた『オーシャンズ8*2よりもひどい。
オーシャンの仲間の黒人が、差別に抗議して危機を脱するしかできないキャラクターと敵に指摘されるのも、21世紀のハリウッド映画として地味にきつい。たとえそういう個人はいても、構造的な差別そのものはあるというエクスキューズくらい入れてほしい。

*1:最初は顔を隠して登場するイザベラの父だが、別に驚きの正体があるわけでもなかった。

*2:『オーシャンズ8』 - 法華狼の日記