地下駐車場で高級車を盗み出し、ドライブしながら護送車の女囚をナンパする男。彼こそがルパン三世。孤児院で育てられたルパン帝国の末裔……
アニメもふくめた『ルパン三世』の初映画作品として、1974年に公開された実写映画。東宝クレイジー映画の後期を担当した坪島孝監督が、漫画調で怪盗を表現した。
横長の東宝シネマスコープだが、尺は1時間半に満たない*1。石川五ェ門は登場せず、他のレギュラーキャラクターの出会いから、因縁が生まれるまでをコメディタッチで描く。
当時の先行する映像化はアニメ第1作しかなく*2、そのためか他の映像作品ではあまりひろわれないルパン帝国を引いたり、当時としてはリアルだったアニメよりも漫画的な演出を多用しているのが興味深かった。
ルパン二世が裏社会の帝国を築いたが崩壊し、残った数少ない部下の次元が帝国の再興をもとめて、日本で生き残っていた落とし子に近づく。泥棒の才能をもって生まれながら帝国の遺産に興味がないルパンの姿で、多数の部下がいる原作設定と、アニメ的な自由人キャラクターを両立させた。
全体としてテンポは牧歌的だが、バイクで歩道橋をのぼったりダンプカーの荷台に乗ったりと、スタントの見せ場はけっこう多い。
的場徹が担当した特撮は合成がほとんどだが、静止した画面をメインキャラクターだけが動くような、時間の流れをいじる演出がおもしろい*3。頁を分割するコマごとにひとつの時空間が存在し、そこでは必要な人物のみ動くという、漫画ならではの表現をそのまま実写化している。原作がメタ的に多用している漫画らしい時間の操作が、この映像化で試みられているとは知らなかった。
いかにもクライムコメディらしいセックスシーンも、原作のように♂と♀の記号を使って、法律に規制されているからと説明するテロップを入れる悪ノリが楽しい。実写とアニメを地味にていねいに融合させていて、あえてやっているのだという余裕が感じられる。もともと性表現は原則として規制されるべきとは思わないが、逆手にとって茶化していく制作者の心意気は気にいった。
短い尺で女や敵が宝が次々に変わったりと、あまり長編映画としての一本の筋がとおっていないのだが、それもまた何もかもマクガフィンとしてあつかう原作らしさがある。
けして歴史に残る傑作映画ではないし、必ずしも原作を忠実に再現した実写化でもない。しかし期待しすぎなければ気軽に楽しめるし、漫画表現について考えるきっかけになるだろう。