法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

食材をパンではさむ料理を「サンドイッチ」と呼ぶ異世界ファンタジーについて、そもそも「パン」という言葉を使う時点で翻訳文という解釈が有力では

「なろうファンDB管理人@スコッパー@narou_fun_db」氏のツイートが注目を集めていた*1

それで一々引っかかるのは大変だろうな、と思わないではなかった*2


まず、特定人物を語源とするため多くの国で使われているが、「サンドイッチ」は基本的には英語と解釈するべきだろう。
サンドイッチとは - コトバンク

薄切りのパンの間に肉、チーズ、野菜などを挟んだ組立て食。この名称はイギリスのサンドイッチ伯にちなんだといわれる。

ドイツでは、小形のパンに肉やソーセージを挟んだものをベレークテス・ブレーチヒェンbelegtes Brtchenといい、ベレーゲンbelegenという語には「雌に雄をかける」という意味もあって、性的に表現したことばで表されている。

一方で、日本における外来語の「パン」はポルトガル語を源流としている。
英語でパンを指す言葉は「ブレッド」や「バン」のはず。他に日本の欧風ファンタジーで採用されそうなドイツ語なら「ブロット」か。
つまり地の文で英語とポルトガル語が共存しているなら、それはそもそも日本の外来語に翻訳されたと解釈してよいのではないだろうか。

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これは異世界サンドイッチにかぎった話ではない。


ただ、上記のように理屈では考えられても、いったんページをめくる手が止まってしまう感情は必ずしも止められない。
バカバカしい例でいうと、たとえば孔明がいるとも思えない世界で「饅頭」が存在していいのか、いや孔明が発明したというのは確度の低い説ではないのか、そもそも第三者が発明してもおかしくないのではないか……などと納得する理屈を考えること自体が引っかかりになってしまう。
異世界らしさとして現実との距離を遠ざける手法と、物語を読みやすくするため現実との近さで類推させる手法が、フィクションにおいて葛藤を生むことはある*3。ファンタジーにかぎらず、なじみのない時代の歴史小説や、遠未来を描いたSFなどでもそうだ。
そうした葛藤で何を優先するか、あるいは第三の道を試行錯誤するかで、新しい物語の面白さが生まれることもある。そうした言葉や単語の存在が伏線として作用する物語もあって、そこでは読者に多少の違和感をもってもらうことを作者も意図しているだろう。
そう考えていくと、個々人が引っかかりを表明することが必ずしも悪いとはいえない。それらの引っかかりを第三者が共有する意味があるかはまた個々に考える話として。

*1:[B! 表現] なろうファンDB管理人@スコッパー on Twitter: "これ作者さんの言いたいことすごく分かるけど、読んでいると引っかかるのも事実なので悩ましい。 自分は異世界に「サンドイッチ」が登場すると毎回そこで引っかかる。「落ち着け、これはラノベだ。読者に馴染みの単語を選んで表現しているだけだ… https://t.co/ZD70T9eal1"

*2:元発言の作者は、そもそも「お陀仏」と「アーメン」を続けて描写しているように、むしろ意識的に書いているような気もするのだが。

*3:もちろん読みやすいと一口にいってもさまざまあるし、それを達成する手法もさまざまあるだろう。現実との一定の距離をたもつことで、一定以上の異世界らしさを生みつつ、その法則性で可読性を高めるとことが、両立を目指す手法の一例として考えられる。