法華狼の日記

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ディズニーの映画『リトル・マーメイド』については、内容を大きく改変するなら原作とは題名を変えても良かった、とは思わなくもないよ

ディズニー自身による実写リメイク版の最新予告が公開され、1989年のアニメ映画『リトル・マーメイド』が再び注目を集めている。

2017年のブロードウェイミュージカルの人魚姫に日系人が選ばれたことも、マイノリティ俳優起用の前例として再び話題になっている。
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ちなみに実写リメイク版は主演に黒人俳優が起用されて話題になっているが、公開された情報は短い予告にとどまり、内容の改変があるとは聞かない。
いくつかディズニー実写リメイク映画を見た印象としては、映像こそリアリティある精緻な表現に変えつつ、内容はほとんどアニメ版と変わらなかった。
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そうしたリメイクは数十年前の作品と価値観が変わらなさすぎて、ルックにともなう世界観の変化にあわせてキャラクターやストーリーを調節するべきでは、と思うくらいだった。
今回の『リトル・マーメイド』も、題名を変えないのも当然なくらい、良くも悪くも内容は大きく変わらないだろうと想像している。


だから題名を変えても良かったのではと思うのは、あくまでアンデルセンの童話を映像化したアニメ映画のことだ。

実写リメイクに対しては、内容を改変するなら題名を変えるべきという意見が一部にあり、アニメ映画の題名が例示につかわれている。

しかしアンデルセンが書いた原作は『人魚姫』という邦題で知られているが、英題は『The Little Mermaid』。ディズニーのアニメ映画も同じ『The Little Mermaid』が原題。
つまりアニメ映画が原作童話から内容を改変していることが題名で示されていると感じられるのは、実際は題名を翻訳した時の違いにすぎない。


そして実写リメイクと違って、アニメ版は原作から内容を大きく改変していることがわかっている。特に有名なのが、人魚姫のたどる結末だろう。
王子とむすばれることをあきらめ、泡として消えることを選んだ人魚姫。その自己犠牲的なキャラクターは、二本足となるために声を代償にしたことにくわえて、その足で歩く時の痛みによっても印象づけられている。
その悲劇性は子供向けとしては強烈で、ディズニーアニメ映画からさかのぼること1979年、『ドラえもん』において絵本に介入して幸福にさせるエピソード「しあわせな人魚姫」が描かれたくらいだ。

その後にディズニーも『ドラえもん』のようにハッピーエンドへ改変したわけだが、介入するキャラクターを出したわけではない。恋敵を魔女の変身した姿と設定し、一体化した敵として倒すことで、人魚姫は王子とむすばれた。
原作童話では美しい恋敵の王女は短い描写しかないが善良に感じられるし、自己を守るために王子を殺すことも人魚姫は選べない。そうした葛藤がディズニー映画からは消されて、単純な勧善懲悪に整理された。
ハンス・クリスチャン・アンデルセン Hans Christian Andersen 矢崎源九郎訳 人魚の姫

ずっと遠くの、ある修道院で教育をうけて、王女にふさわしい、いろいろの勉強をしているということでした。とうとう、その王女が帰ってきました。
 人魚のお姫さまは、その王女が、どんなに美しいかたか、早く見たいと思っていたのですが、見れば、なるほど、こんなに美しい姿の人は、いままでに見たことがない、というよりほかはありませんでした。はだは、きめがこまやかで、すきとおるような美しさでした。長い黒いまつげの奥おくには、ま心のこもった青い目が、にこやかにほほえんでいました。

 船の中が、また、がやがやとさわがしくなりました。見れば、王子が美しい花嫁といっしょに、お姫さまをさがしています。お姫さまが、波の中に身を投げたのを、ふたりは、まるで知ってでもいるように、あわだつ波間を悲しそうに見つめていました。

この悲劇性をたもったままディズニーが実写化するなら、たとえば『マレフィセント』のように魔女が人魚姫を愛していたことにして、泡となって消えゆく人魚姫に最後までつきあう改変をしても良いかもしれない。『魔法少女まどか☆マギカ』の人魚姫モチーフエピソードと似ているが。

ちなみに『ドラえもん』の「しあわせな人魚姫」が2009年にTVアニメ化された時は、いつもより長い30分枠で原作漫画から大きくふくらませ、必死に助けてくれるドラえもんに人魚姫が恋をするなどのオリジナル展開がいくつも追加されていた。
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原作漫画やそれが想定しただろう絵本では省略されがちな人魚の姉も、原作童話どおりに登場した。二次創作という手法を二重三重に物語化したメタフィクションとしての興味深さはあった。『リトル・マーメイド』が話題の今こそ再放送すると面白味が当時より増すかもしれない。