犯人追跡中に同僚を転落死させ、高所恐怖症になった刑事。警察をやめたところに旧友があらわれ、妻の不思議な行動を調べてほしいという。
まるで過去の女性が憑依したかのようにさまよう女性を追いつづけた元刑事は、ふたたび転落死に直面する……
1958年のアルフレッド・ヒッチコック監督作品。原作はフランスの合作ミステリ作家ボアロー&ナルスジャック。
高所の主観的な恐怖を表現するため、奥行きをひきのばす撮影技法ドリーズームを開発活用した作品として有名。その技法で鐘楼を撮影するため、ミニチュアセットも使っている。
現代サスペンスと比べるとテンポは遅いが、ソール・バスのデザインしたOPや、合成による転落死の描写*1、夢か現か判然としない雰囲気づくりなど、映像の見どころは多い。
過去の亡霊にとりつかれたような死から、よく似た第三の女性の登場まで、真相はシンプルだが合理的で、本格ミステリとして完成度が高い。名探偵の観測こそが謎めいた事件の根幹をなすところが現代的だ。
ただ、第二の転落死から狂気におちいっていく主人公が共感しづらい。女性を追いつめる姿にも女性嫌悪めいたものを感じざるをえなかった。
黒幕の男を放置したまま利用された女だけ悲惨な最期をむかえる結末も、これで終わっていいのかと疑問を感じた。勧善懲悪であるべきとは思わないが、たとえば本当は女が全てをコントロールしていたくらいのオチをつけてくれないと、座りが悪い。
事実として、公開当時に女性嫌悪だという批判があったそうで、むしろ時代をへるにつれて評価があがっていったという。