法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』がんばれ!おばけハウス/左、直、右、右、左…

「がんばれ!おばけハウス」は2017年の再放送。世界観がかたまる以前の初期原作を、現在の平均的なイメージにあわせて再構成したアニメオリジナルストーリー。
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「左、直、右、右、左…」は、野球でライバルチームに負けつづけたジャイアンが、エースという立場を捨ててまでチームの改善を考える。のび太は秘密道具でエース候補を見つけるが……
後期短編を2005年以降に初アニメ化。伊藤公志脚本にひのもとひろしコンテで、原作の構成は変えずに、ジャイアンの心情変化を強調するようアニメオリジナル描写を細かく足している。
原作での、いきなりジャイアンが心変わりしてのび太にとっての問題が解決する展開は、いかにも藤子F作品らしい自分勝手な人間心理。比べると、エースを自認する少年の真面目な葛藤として描いた今回のアニメは、構成こそ同じでもドラマの味わいは異なるが、これはこれで悪くない。
もともと原作からして、どこまでも調子にのっていくエース候補がしずちゃんにまで手を出そうとして、ついにのび太が怒って決別するドラマがある。原作のドライさが好みではあるが、今回のアニメのように子供たちの思いを描いたドラマとして再構築されても不自然ではない。
くわえて今回はアニメーションも見どころだ。これまで原画に名前があった篠塚滉平*1が、おそらく初の作画監督をつとめる。原画には三輪修やベテランの西山努、外国人らしきスタッフがならぶ。
冒頭の野球からして遠近を強調しつつ、のびやかに動く。日常の芝居もそつなく、やわらかな描線がここちいい。コンテや演出の力もあるだろうが、ドラマにあわせた表情も細かい。
秘密道具のビジュアルが地味で、全ての出来事が子供たちの日常を舞台として、派手なことは何も起きない物語なのに、映像作品として充実していた。

*1:過去のクレジットと照合すると、かつてはシンエイ動画の下請けの夢弦館をとおして参加していたらしい。夢弦館そのものは椛島義夫代表の急死で経営が難しくなり、2017年に廃業している。事業終了について | 夢弦館 Official Blog