法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』かべ景色きりかえ機/『時』はゴウゴウと流れる

OPで小倉宏文が監督にクレジットされて驚いた。前回まで善総一郎がチーフディレクターだったのに。
シンエイ動画作品での監督経験もあるが、この作品では以前に少し各話演出を担当したことがあるだけ。
2016年の誕生日SP中編*1のコンテ演出を最後に、しばらく名前を見ていなかったので完全な予想外だった。


「かべ景色きりかえ機」は、急の仕事で家族で花見に行く約束をやぶられ、のび太がふさぎこんでしまう。ドラえもんはさまざまな秘密道具で元気づけようとして、壁一面を花見の場所とつなぐ……
2005年以降では初のアニメ化*2ここ最近はエピソードと季節をあわせられないエピソードが放送されがちだったが、今回は桜が散る寸前という時期にあっている。
基本的には原作に忠実だが、アニメオリジナルで電話の会話に切迫感を強めて、父親の職場風景も少し見せる。周囲からたよられる必要な人材として、やむなく息子との約束をやぶったという描写になっていた。その父親の姿をビルの窓ごしに見せ、その父親は街角の桜を窓ごしに見る、切り返しコンテも印象的*3
ジャイアンスネ夫しずちゃんもアニメオリジナルで呼んで、中盤の花見を楽しく演出することで、最後にのび太が両親にも花見をさせてやろうとする気持ちを強化したのも良かった。
ただ、新型コロナで劇場版の放映延期もされた時期に、屋外とはいえ群集が密集して花見する光景をそのままアニメ化したことで、せっかくリアリティを高めた生活感が現実から乖離した感もある。リモートで自宅の花見を楽しむことは、うまく演出すれば時代性の反映にもできたかもしれない。ただ脚本の完成から映像完成までの期間を考えると、今回はそれが無理だったこともわかる。


「『時』はゴウゴウと流れる」は、時間がすぎることを待ちつづけ、毎日を無駄にしているのび太に、ドラえもんが時間の大切さを教える。そして無駄にした時間をとりもどす秘密道具を出す……
伊藤公志脚本と佐野隆史コンテで、同名の短編を2005年以降に初アニメ化。単行本に収録された後期作品で、既存の秘密道具を前提にのび太が行動するため、リニューアルから時間がたたないと難しかったか。
のび太は複数の課題を解決しなければならなくなり、タイムマシンなどの定番から時門*4のようなマイナー道具までつかおうとするが、どれも手元にないとドラえもんが断る天丼ギャグが楽しい。
無駄にした時間を努力して秘密道具でとりもどし、のび太が静止した時間のなかを走りまわる描写も、アニメならではのSFビジュアルの楽しさがあった。
アニメオリジナルでジャイアンスネ夫が川へ落下する危機を救おうとする展開も、のび太なりに知恵をつかって体を動かし、成長ドラマとして説得力を高める。ドラえもんを横倒しにして蹴って転がしながら現場へ運ぶ描写も、緊急避難なのでシリアスさを守りつつ、絵面のひどいギャグで大笑い。原作の止められる時間の限界が近く、時間は静止しているのにタイムサスペンス展開になっている構図もおもしろかった。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:類似道具「窓景色切り替え機」こそ完成度の高いアニメ化がされているが、方向性はまったく違う。 hokke-ookami.hatenablog.com

*3:担当はくずおかひろし

*4:これ自体が時間の大切さを教えるエピソードに登場する秘密道具だが。 hokke-ookami.hatenablog.com