法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』天才のび太の飛行船ゆうえんち

ドラえもんの誕生日を前にして、のび太は夏休みの宿題を終えられないでいた。遊園地と飛行船を合体させたプレゼントを空想しても、ドラえもんは怒るだけ。
しかしその空想を描きとめていたノートに、秘密道具で天才になって描き加えた設計図が、時空を流れてコニーという少女の心を動かす。
そしてコニーが完成させた飛行船遊園地「ノビドッグパーク」が、のび太の前に時空を超えてあらわれた……!


今年の誕生日SPは小倉宏文コンテ演出。ここ数年の誕生日SPをつとめた高橋敦史監督は来年の劇場版を手がけるから、新しい演出家が登板するだろうとは思っていたが、寺田和男監督という予測は外れた。
コンテは全体としてロングショットで、俯瞰の構図を多用している。飛行船の眼下に市街地が細かく描かれ、無数の敵ロボットも全体像を見せる。コンテを映像化するスタッフの負担は大きそうだが、それゆえSPらしい画面の密度はあったし、飛行船の高度も実感できた。
作画監督は昨年とほぼ同じ4人だが*1、TVアニメの原画に大塚正実がいるのは珍しい。終盤の特徴的なアクションだろうか。


脚本は例年通り水野宗徳。きちんと誕生日を物語のポイントにしつつ、それが夏休みの終わった時期ということも活用している。ここまで時候を活用しているのは2010年のSP以来といっていい。
『ドラえもん』決戦!ネコ型ロボットvsイヌ型ロボット - 法華狼の日記

夏休みに入って誕生日スペシャルの前振りが何度も続く宣伝に違和感を持っていたが、それが一気に解消される爽快感もあった。

のび太を天才にする秘密道具がアベコンベで、アベコベになる要素がランダムだった原作描写を設定として活用。意識的に天才にできないゆえに設計図を解読できない説明にした。
コニーもゲストキャラクターとして必要充分な活躍をしていた。設計図を拾った段階では年下の幼女だが、独力で遊園地を完成させた段階では年上の少女。夢に向かって成長する姿と、なくした両親へ敬愛する姿をとおして、のび太ドラえもんへの感謝を喚起する役割も明確。のび太と同レベルなドジっぷりをかいまみせるところも可愛い。ゴンスケも愛嬌があって真面目で、ロボットならではの描写が多くて、コニーの片腕として印象的だった。
なんだかんだいってジャイアンスネ夫も活躍する。いざという時に気弱なスネ夫だからこそ、クライマックスで動きだすのが遅くて、結果として敵の末路を見とどける役割りになったのも意外で良かった。
しずちゃんが水着でジャグジーに入る場面だけを切りとって、自主規制の厳しさだという評価も一部であったが*2、実際はトラブルが起きたため後半ずっと水着のままという展開につながっていた。あまり軽率な感想はいうべきではなかろうが、軽率な一部の反応より攻めているとはいえようか。


また、脚本と演出のどちらの意図が強いかはわからないが、今回は例年より説明的な台詞が少なく、キャラクターの芝居で心情を描こうとしていたことも良かった。途中の敵の作戦や、飛行船を制御する方法を、あらかじめ台詞で説明する愚をおかしていないから、見ていて本気で驚かされた。
そして芝居や戦闘を動きで表現しようとした結果なのか、のび太が考えごとをしながらアベコンベを鉛筆回ししたり、馬型ロボットでドラえもんたちとアクションしたりと、全体としてキャラクターのスペックが少し高いが、それも劇場版のような雰囲気につながった。
ただ、ライバルの遊園地ジェスターランドのジェスターの人格は、もう少し説明してから物語に反映してほしかったかな。雷を怖がる描写など、ホラー的なフォークロアの引用だろうとは思うのだが。