法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』サクラいっぱい大作戦/プロフィールを盛っちゃえ!

「サクラいっぱい大作戦」は、雨続きで花見ができないことになげく両親に対して、のび太はそれの良さがわからない。そこでドラえもんが秘密道具で桜を咲かせる……
2005年リニューアル以降で初のアニメ化。たった2頁しかない旧単行本未収録作品なので、大きくアニメオリジナル描写を足した映像化になる。
地球温暖化のような気候変動の時代を感じさせるエピソードであり、新型コロナ禍で一年以上さまざまなイベントが中止されてきた時代らしいエピソードでもある。
のび太が序盤で語るように、花見を楽しむ気持ちがわからない子供の気分にもよりそいつつ、みんなで騒ぐ楽しさを描いていくのが良かった。花見を絵画調の止め絵で描写する演出もおもしろい。その風景もアイデアいっぱいで、シャンパンタワーならぬジュースタワーをタケコプターで飛ぶドラえもんが注いだり。
絵コンテもかなりこっていて、古い商店街の微妙にうねった道や、樹木がかぶさるような川を通りぬけ、高速でジャイアンが飛ぶ描写など見どころが多い。二度目の岩岡夢子コンテ演出で、今回のほうが新人らしい実験性が感じられた。
ちなみに二原にバイブリーアニメーションスタジオがクレジット。


「プロフィールを盛っちゃえ!」は、早乙女聖子という転校生の少女にみんなが夢中。自己紹介しようとして押しのけられたのび太だが、プロフィールカード交換を提案されて……
鈴木洋介脚本、パクキョンスンコンテによるアニメオリジナルストーリー。転校生に良いところを見せるという意味で、「ぼくよりダメなやつがきた」*1にも似ている。
透明マントでのび太を助けようとしてぶっ飛ばされていくドラえもんがかわいそすぎて爆笑。しかし、全体としてSNS時代で強調された実態よりプロフィールを盛る問題の風刺に近く*2、予想された破滅に近づいてくのび太が痛々しい。
しかしすべてが終わった後、夕焼けの教室でひとりアヤトリをするのび太に転校生が話しかける場面の情感が心地いい*3。ラストカットの青空をとおりすぎる飛行機雲も、安易なパターンではなく、転校生が去っていったことの映像的表現と感じさせて良かった。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:しかし盛ったプロフィールによって劇中でファンクラブができているが、人気者のような周囲が信じるだけで成立する部分は実態をあわせる必要がないあたりも、SNS時代のバズねらいアカウントのようでもある。

*3:ただ、祖母がアヤトリ愛好家という話に、数話前の愛好家を集める秘密道具で登場した老婆を連想して笑った。意図的ではないと思うが、連続ストーリーとしての文脈が生まれている。 hokke-ookami.hatenablog.com