法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『東京ミラクル』第3集 最強商品 アニメ

2019年12月17日に初放映されたドキュメンタリーを、『NET BUZZ』の再放送で初視聴。
www.nhk.or.jp
外市場を総計して1兆円にまでなった昨今、手描き作画のアニメーションを安価で発信できる理由として、やりがいで動くアニメーターの姿が紹介された。


初放映時にさまざまなアニメ関係者の疑問などを見かけていて、つい見るのをためらっていた。しかし本放送部分でも若手アニメーターの平均年収問題*1にふれていたし、『NET BUZZ』の枠組みトークで現場への負担を批判するインターネットの意見も紹介されていた。

歴史的には、日本のアニメ業界が、その制作者たちのやりがいに頼り、低賃金・長時間労働を許容してきたという背景もあります。そして、その結果として、日本のアニメが世界的には低予算で作られてきた現実もあります。
番組では、過酷な現場で働いてきたアニメーターの取材も行いました。そこで強く感じたのは、アニメ制作に携わるひとりひとりの情熱が報われるようになって欲しいということです。

そこで番組は、『鉄腕アトム』から始まった日本における商業量産アニメの歴史をたどり、制作会社ボンズで若手アニメーターが自ら手間がかかるアクションへ作画を変えていく姿を映し、やりがい搾取で挫折した女性アニメーターが中国資本で好待遇の職場につけた現在まで見せる。
手描きアニメの省略方法は『鉄腕アトム』のリミテッドアニメから、出崎演出などの古典的な手法を紹介。待遇面での時代の変化は、NETFLIXなどの海外資本の潤沢さに注目していた。
意外なことにNHK放映の『映像研には手を出すな!』を宣伝しながら、過去の報道と違ってサイエンスSARUの試行錯誤*2は紹介しない。注目するのは同人誌即売会から発掘された原作者と、さまざまなアレンジを加えていくアニメスタッフの、共同作品としてのアニメのかたち。
あえて無責任な消費者として感想をいえば、エクスキューズのおかげで意外と見やすく、情報も興味深かったことは間違いない。いくら劇場アニメとはいえ制作会社ボンズらしいアニメーターの自己判断による作りこみや、スタジオジブリ最新作の進行具合や宮崎駿への最新取材など、他にない情報もたしかにあった。


ただ、いくつか説明に疑問点はあった。
たとえば『鉄腕アトム』の制作会社として虫プロダクションに入って、そこで撮影機材やフィルムを見ながら杉井ギサブロー監督に説明を受けていたが、本当は当時に制作していた社屋ではないし、そもそも同名でも別会社と考えるべきではないか。現在の虫プロは、旧虫プロ労働組合が倒産後にたちあげた小さな会社であって、旧作の著作権等は手塚治虫にゆずられたものだったはずだ。
さらに日本アニメの原型として、共同作業で安価に量産された美術の浮世絵を位置づけようとしていたが、そうした人海戦術のアニメ制作体制はディズニーなど海外のアニメ会社が直接的な源流だろう。それにかぎらず今回の番組では、まるでディズニーが3DCGアニメしか作っていないかのように説明され、誤解をまねきかねなかった。
また、特に誤った説明というわけではないが、番組のシリーズテーマにあわせるためかアニメ会社の東京一極集中だけが語られた。京都アニメーションufotable*3などの地方で人員を育てる試行錯誤にもふれてほしかった。
あと、予告映像で氷川竜介氏がふしぎと若々しいと思っていたら、アニメ好き芸能人のサンキュータツオだった……写真を見比べるとそう似ていないのだが*4、問題なのは私の視力か記憶力か。

*1:NHKでもくりかえし報道された。 若手アニメーターの年収についてNHKが報道 - 法華狼の日記

*2:『クローズアップ現代+』2兆円↑アニメ産業 加速する“ブラック労働” - 法華狼の日記

*3:制作主要部署は東京にあるが、せっかく『鬼滅の刃』を紹介したなら少し地方との関係もふれても良かった。

*4:対談したこともあるという。