王族が姿を消したドルエンテ王国に、エルギュイユ監獄という要塞のような刑務所があった。そこに囚われている義賊フィネガンが死刑にされそうだという。次元大介をはじめ、かつてフィネガンに命を救われた犯罪者たちが救出のために潜入。ルパンは対抗意識、五ェ門は先祖と同じ義賊という共感から同行するが……
2019年11月29日に放映されたTVSP。監督の辻初樹と脚本の西田シャトナーはPART5第20話「怪盗銭形」*1のコンビ。銭形の部下キャラクターもPART5から続投。
4月にひさしぶりに完全新作TVSP『グッバイ・パートナー』*2が放映されたかと思ったら、まさかの同年に完全新作TVSPが放映。
しかしクレジットを信じるなら*3辻監督が単独コンテをつとめているようだし*4、同年作品につづけて丸藤広貴がキャラクターデザインと総作画監督を手がけながら映像も高度に安定している。かなりスケジューリングは良かったようだ。
アクション作画の見せ場も多い。渡辺浩二と鈴木藤雄と芳山優の名前がならんでいるが、中盤にヘリコプターからフィネガンが攻撃して五ェ門が反撃するあたりを担当していそうだ。終盤も監獄の変形をしっかり画面で動かしていて止め絵はわずか、海上の戦闘も充分に楽しめる。
物語は、サブタイトルにもなっている監獄だけでほとんどのストーリーを進行させるコンセプトは素晴らしかった。
別の監獄からルパンが脱獄する冒頭にはじまり、ドルエンテ王国の街を散策する場面はわずかで、すぐに潜入する物語がはじまる。それからフィネガンの真意をめぐる逆転でルパン一味が監獄周辺で分散し、他の犯罪者が潜入したシーンを受けた再潜入ドラマが展開、さらに監獄近くの孤島という立地のドラマも同時進行し……と、ほとんど同じ舞台でありながら二転三転するアクションがつづいて飽きさせない。
ただ、細かい騙しあいをつづける物語なのに、騎士ベルテの正体があからさますぎるのは疑問をおぼえた。フィネガンは偽物かと視聴者に感じさせるつもりだろうミスディレクションは良かったし、その全体像を見ぬく展開は感心できただけに、誰が見ても騙されそうにないベルテの真実に劇中の多くが騙されていた展開が信じられない。せめて髪の毛を染めるくらいはやるべきだろう。
また、義賊が本質的には犯罪者でしかないとつきつける無常感は『ルパン三世』らしさもあるから良いとして、かわりに王族が帰還することで王国の秩序が回復するという結末は安易すぎる。TVSPの短い時間で主権の正統性を表現するために王族という設定は便利だが、結末で勲章をたくさんぶらさげた王が即位しても正当性は感じづらい。さまざまな描写から判断するかぎり、犯罪者が資金を調達していたとはいえ、王が不在のあいだも国家は問題なく運営できていたと思われる。結末で犯罪者は排除しつつ、王族はあくまで一剣士として国家の再建に助力する、くらいの結末にできなかったものだろうか。