2022年2月にロシアがはじめたウクライナ侵攻について、スベトラーナ・アレクシエービッチ、ジャック・アタリ、イアン・ブレマーに道傳愛子がリモートインタビューをこころみる。侵攻直後の2022年4月2日に放送された番組を視聴した。
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知識がないのでインタビューイの選定基準がよくわからなかったが、3人ともソビエト連邦崩壊後のロシア民主化に国内外で縁があり、一定の成果をあげつつ挫折した立場であることがインタビューをとおして語られていく。解説が少なく質疑応答がつづく番組なのに、情報の過不足をほとんど感じなかった。
アレクシエービッチはノーベル文学賞をうけたジャーナリスト*1。第二次大戦終結後にウクライナ地域で生まれ、祖母がドイツ兵の犠牲にも心をいためている姿に影響された。第二次大戦やアフガン紛争の著作でジャーナリストとして名をあげ、ソ連崩壊後は民主化のために動いたが、居住していたベラルーシは独立後に独裁政権がつづき、2020年の大規模抗議と弾圧のなかでドイツ移住をよぎなくされた。
経済学者のアタリは、東欧民主化とソ連崩壊に対して経済面で復興支援して民主化を助けるため、欧州復興開発銀行をたちあげ初代総裁となった。東欧の各国では民主化をすすめてヨーロッパに包摂する成果をあげられたが、ロシアは巨大すぎて支配層も強固だったため挫折。番組においては、米国は敵を必要とする国家であり、軍産複合体が利益をあげつづける敵とするため、民主化させないことでロシアの支配層と思惑が一致したと主張する。
政治学者のブレマーは、ウクライナ侵攻を冷戦の残滓と考えるアタリと違って、そもそも冷戦は終わっていなかったのだと主張する。ソ連崩壊後もロシアは西側諸国と同盟をくむことはなかった。西側諸国もロシアを支援しなかった。しかし「Gゼロ」という概念だけ番組内で説明がないので解釈に困った。著作のタイトルになっているので、その解説やレビューを読んでなんとなく意味をつかんだが……
いずれにしても3人ともがロシアを悪魔化せず、ヨーロッパに包摂される重要性を語る。ウクライナ侵攻はプーチンに責任があることは前提として、民主主義の経験がないロシアの民主化をきちんとささえなかった西側の問題などを指摘する。経験と知識の厚みがある立場から、意外性のないきれいごとを堂々と主張することに意義がある。
印象に残ったのは、ウクライナが核兵器を放棄したことで米国と英国とロシアが地位を保障するブダペスト覚書を出したのに、履行されなかったこと。そこから核兵器保有に有用性を見いだす国家が出てくる懸念が語られる。番組放送後のハマス侵攻に対して過剰報復をつづけているイスラエルが核兵器を事実上保有していることを想起せずにいられなかった。
なお、いくつかの認識や提言には素人なりに疑問を感じたところもあったが、その認識が識者の口から外国の公共放送に提示されたこと自体に情報として意味があるとも思った。