法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも奇妙な物語'19秋の特別編』

奇妙な味の短編ドラマを見せる、土曜プレミアム枠で恒例のオムニバスドラマ。
www.fujitv.co.jp
ここ数回はショートショートの味わいが強く、ひとつふたつホラー風味が入ることが多かった印象だが、今回は珍しく全体的にホラー色が強い。
世にも奇妙な物語|世にも奇妙な物語 ’19秋の特別編 - フジテレビ


「鍋蓋」は、ネットショップで奇妙な商品を勧められて、とんとん拍子で思い人に接近できた女性が、道をふみはずしていく……
購買予測でコントロールされる問題をブラックユーモアをまぶして描く。未来予知レベルで役立つ商品を売りこむ展開が、昔話のわらしべ長者のようであり、『ドラえもん』の秘密道具のようであり。
そのままとんとん拍子で成功するかに見せて、意中の男をライバルの女性にうばわれ、サスペンスへと急展開。ライバルの女性がスマホをいじっている描写から、ライバルもまたネットショップで購入しているパターンかと予測したが、まったく違う結末だった。
厳密なSFとしては粗が多いのだが、シニカルなショートショートと解釈すれば嫌いではない。鍋蓋が皮肉なかたちで役立つあたり予言の自己成就的であるし、それを成功と見なすネットショップ関係者のふるまいも資本主義の風刺といえなくもない。


「恋の記憶、止まらないで」は、ひさしぶりの新曲で成功の道を歩みかけたシンガーソングライターが、恐ろしい真実に気づく……
前話につづいて成功しかけた女性の転落劇だが、ずっと直球のサスペンスとして面白く、ホラー演出の完成度も高い。まず新曲をつくれず評価を少しずつ落としていく主人公の苦しみが切実で、幻想的な夢を見たおかげで再起していく展開にも感情移入しやすい。
そしてその夢が子供時代に出演した番組のCMだったという展開がいい。幻想的な情景が実際は低俗な商業主義だった落差が印象的だし、VHSビデオテープのざらついた映像が不安感をもりあげる。成功をつかみかけ、周囲が先にもりあがったため、意図せぬ盗作と告白できない葛藤がドラマとして純粋に面白い。
そして超常的な現象がおこりはじめ、主人公が追いつめられていく。CMソングを歌っていた女性が他人には見えず、主人公の幻覚という可能性が現実感を生む。演出は『ライト/オフ』など既存の作品を連想させるものが多いが、油断したところに現れるタイミングがけっこう良くて、本気で怖かった。
CMソングを歌っていた女性の情報から、本来の歌い手が別にいるオチは予想の範囲内だが、良い顔の俳優をキャスティングしてホラー感は維持できていた。


コールドスリープは、IT企業の社長が難病を治すため、冷凍睡眠に入る。肉体を維持するため起きられるのは4回だけだが……
日本初の宇宙旅行を夢見るIT企業社長という設定で、現実の似た人物がかつてフジテレビを買収しようとしていたことを思い出す。
ホリエモンロケットが宇宙到達。民間では日本初。堀江貴文さん「宇宙は遠かったけど、なんとか到達しました」(動画) | ハフポスト
このドラマの主人公も自分の身がかわいい守銭奴だが、起きるたびに周囲の人間関係が変化して、少しずつ思想を変えていく。起きるたびに変化する状況と、それで迷走させられる主人公のキャラクターが良くて、意外とストレスなく楽しめた。
ちょっと良い話にまとめたのは好みではないが、人情劇に流れるのは最後の最後で、サプライズで番組エンディングに流れる後日談も台詞がなく、押しつけがましくない。
ちなみに数十年の未来社会をどのように映像で表現するのかと思ったら、未来でも現代と変わらない風景しか映らない物語を展開するという逆転の発想だった。まず息子の政略結婚を助けるために、古い日本庭園でお見合いを見守る。次に起きた時は政略結婚の失敗から会社を失って、企業ビルに乗りこむ展開に。そして貧しくなった家族につれられた新居は、古いアパートの一室……


「ソロキャンプ」は、夜の山林でキャンプを楽しんでいた男に、つぎつぎ奇妙な客がおとずれる。彼らは街にいるような服装をしていて……
板尾創路の初主演。『ゆるキャン△』を連想するシチュエーションだが、すぐ不気味な展開になるので味わいはまったく異なる。
すでにキャンプを始めている場面からドラマが始まるので、山林の外に何か異変が起きている可能性もあるし、主人公を何らかの罠にかけようとしている可能性もある。
いろいろ予想していたところ、最初の客がナイフを奪って自傷する展開にびっくり。物理的な危機が描かれるパターンとは予想していなかったし、地上波ドラマで描写されるにしてはスプラッターが強烈。
しかし客たちが自殺志願者というのも考えづらいと思っていたら、まったく異なる真相が明かされていく。先述したパターンをいくつか組みあわせたものといえなくもないが、予想はできなかった。
あまり伏線は多くないが、主人公がキャンプに持ってきていた救急箱や、そこに入っていたガーゼを客が飲みこむ描写から、一貫したモチーフによる納得感はある。


「恵美論」は、ある日から国語の内容が自分個人を題材にしたものになった女子校生の、奇妙な顛末を描く……
今回の番組で唯一の明確なコメディ。エンドロールの後に流れる短編なので、あえて余韻を壊すために配置したと思われる。特に面白くも斬新でもなかったがアクセントとしては必要充分。
しかし、いくら自分についての問題だとしても、完璧に正答できるかは疑問が残った。自分自身を正確に把握して記憶することは難しいはずだ。