政治的なメッセージのある作品は芸術ではなくなるかのような主張が、特に大日本帝国を風刺するような作品に対して叫ばれている。
「表現の不自由展・その後」に言及した貞本義行氏は、いくつもの大切なことが見えていない - 法華狼の日記
しかしそれとは特に関係なく、たまたま暇つぶしで読んでいた文庫本に、興味深い作品のエピソードが掲載されていた。
- 作者: 木村泰司
- 出版社/メーカー: 大和書房
- 発売日: 2014/11/12
- メディア: 文庫
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それは1896年に描かれた、産業革命時代のフランスを映した「ルーアン 霧のサン・スヴェール橋(Le Grand Pont)」だ。
上記の絵を描いたのは、1830年に生まれて1903年に没した印象派の巨匠、カミーユ・ピサロ。
その温厚な性格から印象派の画家たちを助けた人物だが、思想は無政府主義だった。
自由で平等な農村を賞賛し、工業化する社会を嫌悪した。
そうした政治的信条が、「無粋な煙突とそこから出る煙となって表されている」*1のだという。
もちろん前掲書には「皇帝マキシミリアンの処刑」等、わかりやすく政治状況へ強く訴えかけるメッセージをもった作品も多く収録されている。
しかし、社会批判や風刺に限らず、さりげない細部にさまざまなメッセージがこめられた作品を、それと知らずに受容していることにも気づかされた。
たとえばフランス写実主義の画家ギュスターヴ・クールベによる下記の「眠り(Le Sommeil,)」は、単純なタイトルだが抱きあっているのは娼婦*2。
それも、娼婦の愛情が性を買う客に対してではなく、しばしば対等な同僚に向けられたことを描いたレズビアニズム作品だという。