まったく時機的な余裕がないはずが、うまく偶然が重なって『映画ドラえもん のび太の月面探査記』を映画館へ観に行くことができた。
大ヒット上映中!『映画ドラえもん のび太の月面探査記』公式サイト
くわしい感想はいずれ独立したエントリにまとめるとして、意外にも平成末期を象徴する作品として鑑賞する価値がある作品だと思ってしまった。
月をモチーフにした作品らしく竹取物語を意識した描写が多いのだが、おかげでおそらく偶然にも『かぐや姫の物語』の一側面を延長したものとして読みこめる。
まず、観賞前のさまざまな予告で感じていた不安は、いくつか的中していた部分がありつつも、なんとかひとつの娯楽作品としてまとまっていた。
異説を現実化するテーマもあって、近年のSF作品としてはオカルトっぽさが強すぎる感はあったし、相互に関連性の低い出来事が同時進行することでの物語の軸の分散や、過去のシリーズ映画を意識した要素が多すぎ意外性が足りない問題はあった。
しかし、原作者没後のダメなアニメオリジナル映画と違って、関連性の低い出来事がテーマ的には関連して、印象は強固となっている。そこで感じたのが、これは原作者が製作途中で没したため構成が歪みをかかえた『ねじ巻き都市冒険記』の再構成ではないかということ。
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のび太が友人に見せるため作りだしたキャラクターに始まるメルヘンな『ねじ巻き都市冒険記』は、のび太たち地球の生命を作りだした「種まく者」からの接触や、秘密道具でクローンとして製造された犯罪者による攻撃で冒険活劇へ移行していく。
残念ながら「種まく者」は中盤で去って物語にかかわらず、クローンで増やされた人間という倫理的問題はあっさり処理されて、各要素の物語における結びつきは弱かったが、原作者が最初に決めた「命を作る」というテーマから対立構図までは筋が通っていた。
しばしば原作者はアドリブ的に映画原作を連載して、新設定を後づけのように出していったが、きちんとテーマをしぼることで作品の印象をまとめていた。
たとえば『日本誕生』で敵の正体が未来人であるという展開は、歴史に敬意をはらうというメッセージと密接に関連していた。一方で、原作者没後につくられた『南海大冒険』は、敵が未来人という設定を引きながら、それはただの技術力の説明でしかなかった。
原作者は他にも『竜の騎士』で、滅びたはずの恐竜が生きのこっている謎にはじまる物語に、恐竜が滅びた理由をクライマックスとして配置。『鉄人兵団』は、人間の労働力としてロボットが求められたという地球の歴史の鏡像として、ロボットの労働力として人間を捕まえるという敵ロボットの動機を設定。
そして今回の『月面探査記』は、のび太たちがつくりだしたキャラクターは"現実と思われていた想像"であり、のび太たちのところへやってきたキャラクターは"想像と思われていた現実"だ。SF設定では誕生経緯がまったく異なるキャラクターが「想像力」という共通項をもって、それが敵に欠落しているという対立構図を作りあげた。
そしてその敵の正体は、やはり過去の映画シリーズの設定を引いているようで、ちゃんと時代にあわせて変化をつけている。
その過去映画の敵設定は当時の社会問題を明確に風刺していたが、今作は敵の想像力が欠けているという設定から、結果的に『かぐや姫の物語』に通じる社会風刺を読みこめる作品になっている。
『かぐや姫の物語』 - 法華狼の日記
メインテーマだった女性の性別役割については、女性小説家が脚本を担当しながらも『月面探査記』は弱い。後方の仕事を担当したため決戦にしずちゃんは参加していないし、あまり台詞も多くない。
それよりもサブテーマに関連して、意外な問題意識を読みとれるようになっていた。敵の設定としてはSFにおける古典といってもいいのだが、そこで竹取物語をモチーフにした結果、現在ならではの敵設定が誕生した。
『現代世界の陛下たち』(2018:ミネルヴァ)という本によると。
— おわてんねっと (@zzOMecpIvqvy9G9) February 21, 2019
西欧の君主国では、王室が「中道左派」の言動をするのが21世紀では一般的になっているらしい。
結果、リベラルは王室を支持し、保守派は文句いいながらも君主制を支持し続ける。
ま、要するにあやつらの生存戦略は世界共通なのですよ https://t.co/gXIJ24F8YS
これは冗談ではなく……いややはり半分は冗談だが……上記ツイートを補助線にすると、敵設定やクライマックスが理解しやすい作品になっていたのだ。
くわしい説明はいずれエントリをあらためるとして、想像で現実を乗りこえて記憶を守る『のび太の月面探査記』は、現実に想像が敗北して記憶が失われる『かぐや姫の物語』への回答になっている。
無意識の結果かもしれないが、本当にそうなっていることに驚いたし、そこに感じるものがあった。