法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『惑星大戦争』

 1988年、世界各地で謎の飛行物体が目撃され、異星人の侵略行為と判明する。国連宇宙局の滝川正人は、建造を中止していた轟天を完成させ、若者たちとともに金星へむかう。しかし滝川の娘のジュンが敵に拉致されてしまい……


 侵略者との宇宙での死闘を描いた1977年の日本映画。東宝特撮が『スター・ウォーズ』1作目の米国公開から半年後、日本公開の半年前に完成させた便乗作品として悪名高い。

 メインスタッフは福田純監督、中野昭慶特技監督。このコンビからは『ゴジラ』シリーズが大作感を失った時期を思い出してしまう。


 少し良いところとして、敵地に乗りこんだ時は主観的な移動撮影が珍しく多い。特に鍾乳洞内の戦闘は短いながら同じ便乗映画『宇宙からのメッセージ*1の基地内戦闘を思わせる。
 しかし残念ながら敵の円盤や地球の戦闘機の描写は工夫がなく、爆発時に揺れるカットなどで吊り糸を感じざるをえない。また地球上の敵による被害は『宇宙大戦争*2や『世界大戦争』の露骨なつかいまわしで、低予算の急造便乗作品とあからさま。
 便乗感は『スター・ウォーズ』だけではない。轟天をつくりだした男の最後の選択や、そこから展開されるビジュアルなどは、『宇宙戦艦ヤマト』の最終決戦を真似たかのよう。盗作ではないにしても、宇宙戦艦の横腹に巨大なドリルで穴が空くようなビジュアルは既視感がつきまとう。


 福田監督らしいテンポの良さはあるが、だからといって異星人を前提に宇宙戦艦として轟天を建造しかけていたという設定にリアリティがないし、敵が金星にいると判明するのもナレーションで分析したと説明するだけ。とらわれの美女を着ぐるみの獣人が拘束している映像で、さらに一段階リアリティが落ちる。前線にひとりふたりしか女性がいない『宇宙大戦争』とジェンダー比が大差なく、時代遅れになりつつあったところに性別役割まで強調してしまった。
 敵の戦艦がガレー船を思わせるのは、兵器の配置などが偶然それらしく見えただけというフォローができなくもないが、その戦艦内部に巨大な蛇の装飾があるのは時代錯誤すぎる。
 古代文明を相手にした『海底軍艦*3と同じように少人数で敵戦艦に潜入できてしまうところもバカバカしいし、それを敵は監視映像で察知しているのに被害を出しすぎる。しかも人質にしながら移動させに来たのがひとりだけなので、あっさり地球人に逃げられてしまう。そして地球側はひとりのヒロインを助けるためだけに十人近くと数機の戦闘機を失い、敵は無駄に余裕を見せて人質をうばわれる。人質がひとりだからと見捨てる選択が良いとは思わないものの、どちらも無駄に犠牲を出していると感じてしまった。


 全体として、同じ東宝特撮で十年以上前の『宇宙大戦争』と大差がない。向上したのはテンポだけで、リアリティやスケールは後退した印象すらある。これと比べれば、公開当時は落胆された『さよならジュピター*4は、川北紘一のような共通するスタッフが腕をふるって、時代が新しくなっただけの技術的な新しさは感じられた。