法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

映画オールタイムベストテン:2017〜アニメ限定〜

例によってアニメしばりで参加。
2017-10-31
推奨されている形式*1にそって、まず冒頭にリストを置く。

  1. 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生(2016年、八鍬新之介監督)
  2. 映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃(2015年、橋本昌和監督)
  3. 交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい(2009年、京田知己監督)
  4. BAYONETTA Bloody Fate(2013年、木崎文智監督)
  5. 劇場版 TRIGUN Badlands Rumble(2010年、西村聡監督)
  6. 劇場版BLEACH 地獄篇(2010年、阿部記之監督)
  7. 青の祓魔師 劇場版(2012年、高橋敦史監督)
  8. 百日紅〜Miss HOKUSAI〜(2015年、原恵一監督)
  9. 牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-(2016年、林祐一郎監督)
  10. 虹色ほたる〜永遠の夏休み〜(2012年、宇田鋼之介監督)

オールタイムで楽しめる作品ということで、基本的に娯楽活劇にふりきり、かつ何度もくりかえし観たい作品を選んだ。
各作品の簡単な紹介と感想は、以下の通り。


1.『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』(2016年、八鍬新之介監督)未来のロボットの助けを借りて、子供たちは7万年前へ家出する。そこから時空を超えた旅が始まった……
映画化を前提に同時並行で連載された1989年の漫画を原作として、若手スタッフが再映像化。日本の起源をさかのぼる雄大な物語を、さらに視野を広げて完成させた。
『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』 - 法華狼の日記
今年の映画ベストテン企画を知った時、真っ先に思い浮かんだ作品。あくまでリメイクなので悩んだが、原作と旧作を基盤につつ、全面的に向上して、現代的に飛躍していることから決めた。
いつものキャラクターが、歴史を知ることをもって、分断と忘却にあらがい、自己を確立していく。それを家出少年の自立の旅路として、ぐっと大人びたドラマとして楽しませる。
さらに、自分の都合に歴史を変えるという、主人公の鏡像のような敵との決戦をアレンジ。歴史と他者への敬意をもつことを、頭脳戦としてカタルシスたっぷりに表現した。


2.『映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』(2015年、橋本昌和監督)サボテン輸入のため、日本から南米に移り住む一家族。しかし町長が欲をかいて商談が進まないなか、サボテンが暴れはじめる……
ゾンビパンデミックやアニマルパニックを、人食い植物という設定で子供向けに成立。原恵一監督が降板して以降、単独映画としては完成度が落ちていったシリーズが、ようやく完全に立て直した。
『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り』宇宙探検すごろく/最強!オールマイティーパス/「映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語〜サボテン大襲撃〜」 - 法華狼の日記
大きく舞台を変えることで、ぐっと身近な印象の物語ともなった。日本に余裕があった時代のリアルをうつしたシリーズだけに、新築一戸建てや専業主婦という設定が、最近では貧しくなる社会と乖離する一方だった。
舞台にあわせてテーマも現代的になった。サボテンが人を襲うとわかった後も商売にしようとする町長を、ただ目先の欲にかられた悪人ではなく、街を復興させるため視野をせばめた愚者として描く。明らかにサボテンは原発をはじめとした迷惑施設のメタファーであり、それゆえ安易に町長を批判することもできない。
そして貧しく弱い人々が現状にあらがう群像劇として、娯楽作品としての力強さにつながった。どうしても家族賛歌に回帰しがちなシリーズにおいて、今作は多様な人生を肯定していく。主人公の特異性に依存せず、かつ主人公の存在意義がしっかりある子供向け映画としても重要だ。


3.『交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい』(2009年、京田知己監督)別宇宙から侵攻してきた生命体に対し、未来をせおわされた何組もの少年少女が、それぞれ異なる夢をもって、先導し、利用し、対立し、離別する……
SF設定をもちいた多重構造でジュブナイルアニメに自己言及する。2013年のSF映画ベストテン企画では2位に選んだ*2。初見では一部の結論に不満もあったが*3、2012年の続編的なTVアニメでフォローされた*4
現在は新劇場版3部作がつくられている最中だが、単独で物語が完結する巨大ロボット映画としては、今後これ以上に心がゆさぶられる手描きアニメ作品は出てこないと思う。この作品のような痛々しい板野サーカスは他にない。


4.『BAYONETTA Bloody Fate』(2013年、木崎文智監督)華麗な拳銃技で天使を狩る魔女ベヨネッタ。その旅路で男女と出会い、幼女に母としたわれながら、失った記憶を呼びおこしていく……
バジリスク甲賀忍法帖〜』をTVアニメ化したスタッフが、アクションゲームをアニメ映画化。近年のアニメには珍しい濃厚な作画や、ゲームから引きうつした気恥ずかしい決め台詞などで、わかりやすい娯楽として楽しめる。
しかし流血と戦闘に満ちたセクシーな美女のロードムービーでありつつ、人間関係はシスターフッドで価値観はフェミニスティック。ちゃんと現代らしいアダルティなアクションホラーとして通用する作品だ。


5.『劇場版 TRIGUN Badlands Rumble』(2010年、西村聡監督)伝説の大強盗の来襲が予想され、市長が荒くれ者を雇う。そのなかに平和主義でありながら破壊をまきおこす賞金首の姿があった……
連載中の漫画をTVアニメ化したスタッフが、脚本家を小林靖子に交代して、原作者と協力してオリジナルストーリーで制作。
どこまでも気軽な西部劇風の乾いて明るいSFアクション。街の動力源プラントをめぐる戦いや、長い時間を超えた人々の因縁などで、原作の設定を活用した大騒動が展開され、素直に活劇として楽しめる。
なおかつ復讐劇の顛末などから社会派テーマを読みこむこともできる。それをふくめて重すぎず、未来に開かれた清々しい余韻がいつまでも残る逸品。


6.『劇場版BLEACH 地獄篇』(2010年、阿部記之監督)死神の代行者となった青年が、妹をとりもどすために地獄めぐりの旅に出る……
原作漫画の連載10周年記念で、TVアニメ放映中に制作された劇場版。原作者も物語や設定に深く関わった。
『劇場版 BLEACH 地獄編』 - 法華狼の日記
原作のソリッドなデザインの魅力はそのままに、間延びとされる不評なテンポは凝縮され、手描き作画の高速アクションも充実。沈鬱な物語でありながら娯楽としての完成度は高い。
ある種の社会への抵抗を描いた物語としても独特の良さがある。少年漫画における正しさは、より多くの仲間を集めることで証明されがち。対してこの作品は、正しさを目指すがために仲間とたもとをわかつ果てを描く。それが地獄へ降りていくにつれ索漠としていく情景と、主人公の峻厳たる態度と合致した。
あえて誤解を恐れずにいうなら、きちんと娯楽として成立している『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』といったところ*5


7.『青の祓魔師 劇場版』(2012年、高橋敦史監督)エクソシストを目指す少年が、誤って祠を壊し、幼い悪魔をよみがえらせてしまう。少年は悪魔と仲良くなるが……
エクソシストのつどう階層都市とパレードが、『千と千尋の神隠し』の監督助手によって、絢爛で活気ある情景として表現される。その片隅にあった小さな出会いと別れ。
『青の祓魔師 ―劇場版―』 - 法華狼の日記
これもまた漫画的なアクションホラーに仮託して、街の歴史を記憶して継承しようとするストーリーであり、合理的で冷徹な選択を主人公がはねのけるドラマである。
しかしこの映画においてヒーローらしい選択肢を進んだ少年に、正しい結果はついてこない。すべてを救おうとする願いは、物語にも作者にも誤りと批判される。だからこそ、約束された成功にはつながらない無私の決断が、どこまでも祈りにも似て貴いのだ。


8.『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』(2015年、原恵一監督)葛飾北斎を支えた娘を主人公に、終わりゆく江戸を生きる人々が映しだされる……
絵によって社会の美も醜もうつしとろうとする試みが、アニメという絵で構成される映像表現を活用して描かれる。
『百日紅〜Miss HOKUSAI〜』 - 法華狼の日記
今回は本当に好きなオールタイムベストテンゆえに、できるだけ刺激的で素直に楽しめる作品を選んだが、これだけは少し違う。
ささいな自然のうつりかわりを、こまごまとした日々の情景を、しずかにつみかさねていくだけ。それを時代の流れに消え去った、消息すらわからない女性というマイノリティの視点で切りとった。


9.『牙狼〈GARO〉-DIVINE FLAME-』(2016年、林祐一郎監督)魔を討滅する騎士たちが、守るべき幼子を追い、滅びた国へ向かう。そこでは死すべき者が復活して待ち受けていた……
良くも悪くも定着して久しいが、当初は意欲的な特撮ダークヒーロー番組だった『牙狼〈GARO〉』シリーズ。その前史として初アニメ化された『牙狼〈GARO〉-炎の刻印-』の後日談。
観客がTVアニメを把握していることを前提として、尺は短く80分に満たない。しかしアニメでは映画においても珍しいシネマスコープサイズで、正面からダークファンタジー世界を映像化した。
広々とした奥行きある風景に、アイデアたっぷりの殺陣が、地形を活用した立体的なアクションとして表現される。手描き作画と3DCGの併用にまったく違和感なく、かつそれぞれのレベルが異常に高い。カメラワークは遠近縦横を自由に動き、アニメでありながら実写よりも広々とした空間を感じさせる。
そして物語はシリーズの基盤を掘りさげる。“美しさにこだわる女性”という男尊女卑な敵の行動原理に、““美しさにこだわる女性”にこだわる男性”という枠組みを重ねて相対化。逆に血縁にからめとられてきた主人公側の人間関係を、過去に目を向け視野を広げる起点へと位置づけて。男性しか騎士になれなかったり、資格が血統で決められたり、いかにもオカルトファンタジーらしくステロタイプなシリーズ設定が、戦いをとおしてモダンヒーローに組みかえられた。


10.『虹色ほたる〜永遠の夏休み〜』(2012年、宇田鋼之介監督)山奥で悪天候にあった少年は、数十年の時をさかのぼり、ダムへ沈む前の村にたどりつき、同年代の少女と出会う……
WEBで発表後に商業出版された児童文学を東映がアニメ映画化。ノスタルジックでいて鮮烈な映像体験をもたらすボーイミーツガールな物語として完成した。
『虹色ほたる〜永遠の夏休み〜』 - 法華狼の日記
しかし物語を構成する要素ひとつひとつは既視感がありながら、それを組みあわせてたどりついた結末の意味するところは、初観賞して数年たった今も言語化できない。しかたなくこの位置に入れたが、オールタイムベストテンに入れるべきか、そもそも順位をつけられる作品なのか、ずっと悩んでいる。


選んだ基準のひとつが、それなり以上の作画アニメであること。いまも手描き作画は技術的な向上をつづけているがゆえ、オールタイムベストでありながら、すべてここ8年以内に公開された作品となった。
1位だけは作画アニメとしては他より落ちるが、『ドラえもん』としては珍しく光源を意識した背景美術アニメであることや、旧作と比べて全面的に向上していることを重視。
4位は近年の潮流とは異なる方向に進歩した、こってり濃厚な陰影表現と、それをダイナミックに動かす技術力が特徴的で良かった。
6位と9位は生者を求めて地獄に行くという内容だけでなく、田中宏紀の参加という共通項もある。さらに9位は敵の激情がほとばしるシーンを大平晋也が担当するというサプライズ。
8位は日常の自然を描くために、シャープな手描き作画を活用するという判断が珍しい。
10位は作画アニメとして他を圧倒するが、その異質性もまた順位付けを悩んだところ。


以下、番外もいくつか。
『おまえうまそうだな』(2010年、藤森雅也監督)捕食者と被食者の愛情を描いた絵本が原作。似た『あらしのよるに』がふたりの関係性をくりかえしたことに対して、群像劇として広がりがあり、クライマックスのアクションシーンも魅力にあふれて、より好みだった。ただちょっとまとまりが良すぎて、もっと引っかかりのある歪さもほしかった。
鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星 』(2011年、村田和也監督)スタジオジブリ出身ながら、平凡な作画では平凡な印象だった村田コンテが、BONESの圧倒的な作画によって初めて魅力が理解できた。移動中に延々とアクションしながら設定解説をする前半から、短い中盤で少しクールダウンして、延々とアクションしながら因縁と伏線を後半で回収するという、あまりにも破天荒な構成もアクションアニメとして比類なき価値はあった。
ただ物語は問題提起こそ良かったし、ゲストキャラクターの違和感もスピンアウトとして理解できる範囲だったが、どんでん返しに意味がないという難があった。敵味方の関係が変わったはずなのに、クライマックスの行動に変化をもたらさない。すぎたるはおよばざるがごとし。
劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』(2014年、米たにヨシトモ監督)魅力的な設定と導入ながら、活用しきれずに終わったTVアニメを、ドラマを深掘りするように映画化。いかにもアメコミヒーローを意識したらしい設定から、きちんとそれらしいマイノリティのドラマを正面から展開してみせた*6。しかし全般的に文句はないからこそ、この作品のポテンシャルはもっとあると期待できて、オールタイムベストには選べない。さらなる魅力を引き出した新作を今も望んでいる。
イリュージョニスト』(2010年、シルヴァン・ショメ監督)成人男性に幼い少女がつきまとうという夢物語を、台詞を抑制した生活描写をとおして、保護と自立のドラマとして展開。人物の全身がぎりぎりフレームにおさまる独特のレイアウトで、全てのカットが美しい絵として成立している。しかし表現としてあまりに清廉でまぶしすぎて、もっと暴力的で頭の悪い作品が観たくなってしまう……

*1:ネット上の投票企画の書き方 - 破壊屋ブログ

*2:SF映画ベストテン〜アニメ限定〜 - 法華狼の日記

*3:『交響詩篇エウレカセブン : ポケットが虹でいっぱい』 - 法華狼の日記「大人が子供に希望を仮託することの危うさを直前まで描いているだけに、もう少していねいな語り方をしてほしかった」。

*4:『エウレカセブンAO』第二十三話 ザ・ファイナル・フロンティア(episode:23 Renton Thurston)/第二十四話 夏への扉 - 法華狼の日記「子供を産み育てることの肯定において、子供の意思を無視して親だけで完結して見えた問題に、きちんと今作で決着がつけられた」。

*5:『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』 - 法華狼の日記でも連想した作品として言及した。

*6:『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』 - 法華狼の日記