軌道上の宇宙ステーションが破壊された。地上では陸橋が浮上し、レールを失った列車が落下する大惨事が起きる。そして各国の代表が日本に集まり会議がおこなわれるなかで、参加者のひとりが不審な行動をとる。それは月の裏側に隠れた侵略者、ナタールにあやつられたためだった。地球は総力をあげて2基のロケットを月に送りこむが、乗組員のひとりはナタールにあやつられていて……
東宝特撮で初めて本格的に宇宙を描いた、1959年の日本映画。同じく異星からの侵略者と戦う『地球防衛軍』につづいて、本多猪四郎監督と円谷英二特技監督の黄金タッグで作られた。
タイトルは『大長編ドラえもん のび太の宇宙小戦争』の元ネタのひとつっぽく、それを確認する意図もあって鑑賞したが、内容に連想させるところはなかった。
まず、陸橋をのぞいて序盤の世界各国の被害があからさまにマット画なことは残念。被害を報道する場面にあわせて、新聞の写真のようにモノクロ処理して粗く加工すればリアリティをたもてたと思うのだが。
しかし60年以上前の作品としては映像面では大健闘。1968年の『2001年宇宙の旅』でつきはなされるまでは、日本映画の特撮技術が世界にとどいていたことを実感させる。宇宙空間は黒々として星は小さな光点。回転する宇宙ステーションや直進する宇宙船は揺れず、糸も見えないので、吊られている感じがない。
地上のロケット基地のスケールやディテールは『サンダーバード』を超えていると素直に思えたし、月に着陸したロケットも実物大の脚部セットを作って、人間のアクションと自然にミニチュア特撮をつなげている。
温度が下がると引力がはたらかなくなる設定は当時でも誤っているSF考証だし、それで破壊されて吹きとばされる市街地は軽くて中身のない箱っぽいが、ミニチュアのディテールは悪くない。
かなりビジュアルが良いのに『地球防衛軍』などと比べても言及されることが少ないのは、異星人を撃退する物語や映像に特異な個性がないためか。それとも、モゲラのような怪獣の類が登場しないため、怪獣を紹介する書籍や番組で言及される機会がないためだろうか。
一応、ナタールという異星人は登場するが、宇宙服を着た状態でしかあらわれず、それも洞窟のような暗がりだけなのでディテールがはっきりしない。それゆえ『地球防衛軍』と比べて最低限のリアリティを確保できて全体の統一感もあるのだが、結果として作品の顔となる特撮キャラクターが存在しない。そうしたキャラクターが作品を印象づけるために重要だとすれば、災害特撮映画『妖星ゴラス』で本筋と無関係に登場して完成度を落とすだけだった怪獣マグマも、作品を忘れさせないためには結果的に効果的だったのかもしれない。

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