溝口健二や黒澤明、小津安二郎といった巨匠の作品で撮影をつとめた宮川一夫の技術をほりさげる。
NHKドキュメンタリー - ETV特集「キャメラマンMIYAGAWAの奇跡」
12月8日に本放送された番組を、再放送で視聴。あまり古い映画を観ない自分でも知っている『羅生門』や『雨月物語』といった各種作品を初めとして、技術的制限の多かった時代でいかに目指す表現をフィルムに定着してきたかという試みを解説。
『羅生門』で森林の光源を求めて衣裳部屋の大鏡を持ちだしたり、煤ガラスの煤部分を太陽に重ねて撮影に成功したり。『雨月物語』で幽霊のあらわれるまでを1カットで表現したり*1。
合成でオーバーラップを表現すると画質が劣化するからと、生フィルムで必要なカットを撮影していった1943年の『無法松の一生』*2には、その撮り直しのきかない作業量の多さにめまいをおぼえた。フィルムを送る設計図「勧進帳」を実際の映画に照らしあわせる再現で、その完璧な仕事ぶりも実感できた。
そしてそうした技術をきちんと記録した宮川自身の膨大な資料群と、その仕事を撮影時の意図をくみながらリマスターしようとする現代の映画人。最新の映画でも、膨大な試みの歴史の上に成立していることが実感される。
*2:ちなみに番組では1960年の『おとうと』で大正時代の色調を表現するため銀残しを完成させたと解説していたが、英語版Wikipediaによるとモノクロ映画の『無法松の一生』で初めて使われたとの記載がある。Bleach bypass - Wikipedia しかし出典のリンクを読む限り、銀残しの発明は『おとうと』と関連づけているものしかない。おそらく編集者の勘違いだろう。