法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season17』第9話 刑事一人

サルウィン共和国の青年が死体となって発見される。彼は伊丹が常連の牛丼屋の店員だった。謎の圧力がくわえられるなか、伊丹はひとりで捜査をはじめる……


第7話につづいて亀山薫の存在感がちらつく物語を、真野勝成の脚本で展開する。
なぜかフルネームだけは出さないが、警察をやめてサルウィンで支援活動をしていることは説明。その亀山の助けで日本に逃れられた人々ということも動機として伊丹を動かす。


外国人を通り魔のように暴行する若者たちという犯人像の単純さに真野脚本の悪癖を感じつつも、難民への暴力的な排斥と、それを後押しする有力政治家という社会派テーマを正面から描いたことに感心した。
そうした暴行事件が氷山の一角でしかないことも、立場の弱い在留者の証言しづらさとして描いていく。そこでようやく名乗り出てもらった証言者を、そのまま入管にひきわたす杉下と冠城の非道さも印象的だ。ルールの順守を非人間的に要求する杉下らしいし、劇中でも言及されたように元法務官僚の冠城らしさがある。これが亀山ならば最後まで難民を守ろうとつきそったりしたかもしれないし、神戸尊ならば入管に介入するのが自分の仕事ではないかわりに引きわたすのも自分の仕事ではないと見逃したかもしれない。


最後に、連続暴行事件を起こした若者たちと挑発にのって暴行してしまった伊丹のドラマから外れて、少し違う真相を用意したのも良かった。そこには多数派に押されて先鋭化した暴力だけでなく、分断された弱者同士が傷つけあう問題もあった。
どれほど憎悪すべき下劣な人間だったとしても、冤罪によって犯していない罪の罰がくだされていいわけではない。どれほど憎く感じる相手にも人権があると理解してこそ、外国人を憎悪し排斥しようとする思想へあらがうことができるのだ。