法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season21』第1話 ペルソナ・ノン・グラータ~殺人招待状

腐敗した政府を打倒して絶対君主制となったサルウィンから革命の英雄が来日する。その親善パーティー杉下右京が何者かから招待された。それは古い相棒の亀山薫があえて杉下に引っかかりをおぼえさせ、パーティーに出席するよう誘導したものだったが……


ドラマとしては初代、劇中設定では三代目にあたる杉下右京の相棒が十数年ぶりに登場。交代後は存在がドラマから消され、近年ようやく名前が少しずつ劇中で言及されるようになりつつも俳優の新規撮影はなかったが、今シーズンでようやく復帰した。
監督は橋本一で、脚本はシリーズの初期からメイン回を手がけてきた輿水泰弘。なつかしいメインキャラクターの復活や、国境をこえた爆弾テロと要人暗殺をくみあわせたスケールの大きい事件でありつつ、肩の力がぬけた再会描写になっていたことは良かった。神戸尊以降、知性で杉下と対等な相棒が多かったところ、ワトソン役の典型らしく頭の回転がにぶい亀山の言動が逆に新鮮。
今回のところは予告の予想と違って事件に社会派テーマを感じさせず、旅客機全体の乗客と小国の英雄ひとりの命を天秤にかけさせる脅迫と、脅迫に踊らされる複数の人々の密室劇にあてられていたのも悪くはなかった。英雄のまわりにいるのが英雄を殺せとおどされている人間ばかりという状況の寓話性が興味深い。
ここから普通なら当局に連絡して国家が全力をあげて対処にとりくむ展開となり、国内ドラマでは困難なスケールになるだろう。しかしこのドラマでは、まだ日本政府も対応を決めかねている政情不安定な小国が相手であり、要人でありつつも権力をもつ君主ではない英雄が標的なので、事態を知るのが少人数のまま物語が移行しても許せる。これが同種のポリティカルアクションならリアリティは充分と判断されるだろう。


もちろん、さすがに話の都合が優先されすぎて首をかしげるところはある。杉下がブラフと読み切った脅迫をむざむざ成功させてしまう結末はどうかと思ったし、何の証拠もないデジタルの文章だけの脅迫を杉下以外の全員が信じてしまったことの説得力も足りない。
特に後者は、爆弾の入手については言及する描写が少しあったが、いっそのことサルウィン国内で革命前に航空機爆破テロが発生した描写を回想したりして、それが発生しうることだと登場人物が感じてしまう背景を用意しても良かったのではないか。それをきちんとしたVFXで描写すればポリティカルアクションとしての見せ場にもなったろう。
革命時の劇中映像はおそらくフィリピンの協力で充分なスケール感で表現できていたし、想像上の旅客機爆破も遠景1カットだがそつなくVFXで描写できていたので、それくらいの背景描写は可能だと思う。