法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『HUGっと!プリキュア』第23話 最大のピンチ!プレジデント・クライあらわる!

幹部ふたりの退場を受けて、クライアスからダイガン部長が初参戦。一方、背中を押した皆が歩きだしたことで、野乃はひとり取り残される……


坪田文シリーズ構成が脚本を担当し、まず敵組織が動きを見せる。チャラリートにパップルが退場し、ルールーが敵になっていたわけだが、ひとり存在感があったキャラクターを今回あっさり切り捨てるとは予想できなかった。
もちろん敵組織を刷新することで主人公の危機感を演出する展開だけならば定石だ。しかし、まさか戦う直前に退場させられるとは思わなかったし、いわゆる捨てキャラクターらしい立場でもなかったので、意外性は充分ある。
これまでの高い自己評価を、うまく番組フォーマットに則って強弱のバランスを壊さないよう処理したクレバーさも光る。自称ほどの強さを表現する余裕がないなら、いっそ思いっきり弱くして落差を演出したほうが印象に残るものだ。


また、ここしばらく愛崎とルールーのドラマに重心が移っていた物語を、過去描写ひとつで野乃のドラマにひきもどした剛腕ぶりも感心させられた。
ほんのわずかな過去の痛みが、誰かを応援するという作品全体のテーマの重みを増す。視聴してすぐ第1話を見返して、転校の資料をきちんと用意できていないことや、遅刻を恐れている描写など、ちょっとしたコメディ描写まで伏線として機能していることに驚かされた。
主人公が転校する珍しくない導入も、今回で見方が変わる。髪型を自分で変えようとハサミをもつ野乃の姿や、「なりたい私」をわざわざノートに絵として描いていること、「フレフレ私!」「負けない」という口癖、母の抱きしめる行動など、さまざまな描写に新たな意味がもたらされている。
作品全体としても、母親のようになりたいという主人公の願いが、もうひとつのテーマの育児だけでなく、保護者のロールモデルという意味も感じられた。敵組織から放逐された敵幹部を切りすてる直前で思いとどまった第11話*1も、過去から一貫する信念として人格に筋がとおった。
主人公が劣等生だったことはシリーズで何度もあったし、家族関係で孤独をかかえた作品もあったが、今作ほどの描写はなかった。難しいテーマなので着地させることは大変だろうが、だからこそ今回の挑戦には視聴者としてエールをおくりたい。


ただ、力の入ったエピソードのわりに、わかりやすさを優先した志水淳児演出のためか、ところどころ不要に力の抜けた絵が散見されたのが残念だった。
特に、プリキュアが精神攻撃で屈した場面で、誰もが同じように膝をつくポーズをしていたのは、記号的にすぎる。アクションも、怪物オシマイダーが強化されたというには過去回との差別化ができていなかった。後半からのアクションは作画に力が入っていて良かったのだが。