法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『HUGっと!プリキュア』第29話 ここで決めるよ!おばあちゃんの気合のレシピ!

野乃がみんなをつれてきた小さな和菓子屋は、祖母がひとりできりもりしていた。みんなは手作りの和菓子を楽しむが、いあわせた常連の老女が味に文句をつける……


衰えていく商店街で、それでも前向きに未来を見つづけようとする老人たちの物語を、コメディとシリアスの振幅たっぷりに描く。
今作ではシリーズディレクターらがコンテを切った回の演出を担当してきた平池綾子が、コンテをふくめた単独演出。すでに『ONE PIECE』で単独演出をくりかえして高く評価されているようだが、なるほど場面ごとのテンションの違いを強調する仕事が良い。動かさない場面を適切に選び、省力しつつ雰囲気を出して、アクションする場面を実質以上に動いているように見せている。
上野ケン作画監督もいい。笑わせる場面はデフォルメを強調した動きで、シリアスな場面は細かく描きこんだ表情で、物語を絵の力で支える。ちゃんと取材もしたのだろう、小さな和菓子屋の表や裏に大勢が入りこみながら画面が破綻していない。


脚本は、第9話の技巧的な構成*1が好印象だった有賀ひかる。
祖母を元気づけるため復活させようとした菓子「希望まんじゅう」が、さつまいもを餡に使うレシピなのが暗示的。約十年前に見かけた光景を思い出していたら*2、レシピが生まれた背景として調達できた食材の少なさが言及され、庭が畑になっているらしい回想まで挿入される。「戦争」のような言葉をいっさい入れずに、放映時期らしさを感じさせる。
いかにもアニメ的な元気いっぱいの老人に見える祖母が、弱さと衰えをむきだしにする生々しさのギャップもいい。ちょっと高低差がありすぎるようにも思ったが、印象づけとしては悪くない。そこまで衰えをきちんと描きながら、継承する人材がいない根本は解決できなかったが、とりあえず祖母が生きている間くらいは支えられる人材が確保できたという結末も象徴的。この作品が描こうとする「未来」は、実際のきたるべき時間というより、今現在を生きる人々の指針ということ。