火星での調査中に嵐が発生し、6人の調査隊は脱出して地球へ帰還することに。そこで飛ばされてきた機材が直撃した仲間は、事故死と判断されて置きざりとなった。
しかしその仲間、ワトニーは傷つきながらも生きていた。残された物資をかきあつめ、ワトニーは問題をひとつひとつ解決して生きのびていく……
もとはWEB小説の近未来SF『火星の人』を原作として、リドリー・スコットが監督した2015年の米国映画。現在の延長上にある技術や知識による孤独なサバイバルを描く。
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8月3日には「金曜ロードSHOW!」で2時間半に枠を拡大して地上波初放映される。
http://www.ntv.co.jp/program/detail/21870902.html
火星にたったひとり残された宇宙飛行士。迎えがくるまで4年…水無し!通信手段無し!食糧は31日分のみ!“決して諦めない男”と“仲間を思う気持ち”が起こす奇跡の物語
ほとんど情景に変化のないワンシチュエーションサスペンスなのに、尺は2時間20分と長い。物語も、問題と解決が交互におとずれるという単調になりかねない構成だ。それなのに、まったく飽きずに最後まで見ることができた。
イモを使って食糧を確保できるようになった序盤で、そのまま救援を待つだけの展開になるかと思いきや、とぎれなく課題がつみあがっていく。それを豆知識と工夫で解決していく展開に、オーソドックスな漂流劇の面白さがあった。
ワトニーは通信もできない孤独な状況でもポジティブにふるまい、雰囲気が暗すぎずメリハリがあるのも良い。とりのこされた生存者をめぐるNASAの混乱もブラックな風刺劇として楽しい。
ほとんど赤茶けた砂漠が広がるだけの情景も、残された施設が少しずつ改造や破損で変化していくことで、時間の経過とワトニーの心情の動きが絵として伝わってくる。スタジオセットに背景を合成した火星の地表から、宇宙船内の無重量状態のVFXも、無理なく自然にこなせている。あまりロングショットを使わず、魚眼レンズのようなショットを多用してドキュメンタリータッチにしあげているところも面白い。
救援を早めるアイデアも、ドラマとして納得の展開につながり、火星をはなれてもタイムリミットサスペンスが持続する。カットの長さを重視した『ゼロ・グラビティ』*1ほどではないが、『ミッション・トゥ・マーズ』*2くらいのサスペンス性はあった。
ただ、宇宙開発の現状を反映するように中国が手をさしのべる場面は、いかにもWEB小説らしい書き送りな展開と感じた。映画ならば伏線を入れておくべきところだろう。たとえばNASA関係者が中国をライバル視しつつ見くだすような場面を序盤に入れておけば、より大きなカタルシスが生まれたのではないか。
いずれにしても、近年のリドリー監督作品では珍しく高評価されていることも納得の完成度だった。
考えてみると、ワンシチュエーションでサスペンスをひきのばす物語がリドリー監督に向いているかもしれない。近年の評価が低い作品は複数のテーマを混入させることで最終的に観客の期待を外してしまうことが多かったし、過去の評価が高い『エイリアン』や『ブラックホーク・ダウン』はワンシチュエーションをつきつめることで情景だけで文芸性を感じさせるような作品だった。
そういう意味では、シチュエーションが終わった後、ワトニーによる説教だけはメッセージとしても陳腐で、少し蛇足のように感じられた。思えば『ブラックホーク・ダウン』も、結末の会話によるメッセージだけは陳腐に感じられたものだ。