法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

戦争映画ベストテン〜実写限定〜

戦争映画ベストテン〜アニメ限定〜 - 法華狼の日記
あまり実写映画を押さえていない人間として、例年のとおりにアニメ限定で上記エントリを上げた。
しかし以前に参加したエントリのコメント欄を見返していて、こんなことを書いていたことを思い出した。
音楽映画ベストテン〜アニメ限定〜 - 法華狼の日記

※『セッション』すらタダで見せてもらえる機会があったのに逃すし、他で名前があがっている実写映画は大半を見てないし、本当に音楽映画ではアニメじゃないと参加できません。
※戦争映画ベストテンなら、なんとか実写作品もふくめた範囲で参加できるかも……

実際、アニメ作品から一押し作品を選んでいる最中にいくつかの実写作品も考えていた。そこで投票した後、集計結果の発表前に選んだ作品が下記のリストになる。

  1. 太平洋奇跡の作戦 キスカ(1965年、丸山誠治監督)
  2. ハート・アタッカー(2007年、ニック・ブルームフィールド 監督)
  3. ブラックホーク・ダウン(2001年、リドリー・スコット監督)
  4. ダルフールウォー 熱砂の虐殺(2009年、ウーヴェ・ボル監督)
  5. 突撃(1957年、スタンリー・キューブリック監督)
  6. 野火 Fires on the Plain (2015年、塚本晋也監督)
  7. カジュアリティーズ(1989年、ブライアン・デ・パルマ監督)
  8. ルワンダの涙(2005年、マイケル・ケイトン=ジョーンズ監督)
  9. ジャーヘッド(2005年、サム・メンデス監督)
  10. ミツバチのささやき(1973年、ビクトル・エリセ監督)

実写ということもあって、アニメよりも直接的な戦場描写の多い映画が残った。


以下、簡単な紹介と感想。
1.『太平洋奇跡の作戦 キスカ』(1965年、丸山誠治監督)孤立した日本軍の脱出作戦を映像化。集計結果の50以内に入っていない*1ことが意外なくらい、第二次世界大戦では珍しく素直に娯楽として味わえる作品。
ひとつの島を舞台にしてストーリーもコンセプトも明快で、戦闘の見せ場も陸海空とまんべんなくある。潜水艦が沈む情景や、霧の向こうの軍艦へ犬が吠える場面など、派手なだけではない詩情あふれる特撮が印象的。日米両軍が死なず殺さずにすんだ結末も気持ちいい。
2.『ハート・アタッカー』(2007年、ニック・ブルームフィールド 監督)米国占領下におけるイラクで、米軍に対するテロ攻撃に対して、暴走した米軍が市民を虐殺したという事件を、等分な描写で映像化していく。先に公開されていたのに、邦題で『ハート・ロッカー』をパクったことで配給が悪名高い作品。
ドキュメンタリータッチではないが、どこまでも淡々と陰惨な事件を描いて、やるせない気分にさせられる。あくまで戦場から少しずれた場所にいる個人の英雄譚の変奏だった『ハート・ロッカー』よりも好み。殺しあうほど対立する人間でも同居せざるをえない、そんな地域のありようを象徴する結末も印象的。
3.『ブラックホーク・ダウン』(2001年、リドリー・スコット監督)戦場においてあらゆる意味で孤立した軍隊を描ききった作品。とぎれなくつづく戦闘シーンの圧迫感が忘れがたい。
結末で台詞として語られるメッセージ性は凡庸だし、どこまでも身勝手な米国視点によりそってはいるが、だからこそ一瞬だけ顔をのぞかせる敵の心情がきわだつ。物語は作者の意図を超えた読解を許すことがある、良くも悪くも。
4.『ダルフールウォー 熱砂の虐殺』(2009年、ウーヴェ・ボル監督)ゲームの映画化において全世界から嫌悪されている鬼才の、奇跡的な佳作。インディペンデント系の映画賞も獲得している。前半が緩慢としていなければ、もっと順位を上げたい作品。
『ダルフール・ウォー 熱砂の虐殺』 - 法華狼の日記
虐殺シーンで『炎628』をはじめ、過去の名作戦争映画からてらいなく引用しているが、つながりに違和感がない。どこまでも先進国や被害者の視点で虐殺を描いているからこそ、一瞬だけ虐殺者の主張をとらえる場面が『ブラックホーク・ダウン』より印象的だった。
5.『突撃』(1957年、スタンリー・キューブリック監督)戦闘のつづく塹壕を延々と歩いていく1カットの長回しと、体面のために兵士が処刑される軍隊の無常さ。
同監督で評価の高い『フルメタル・ジャケット』は後半の戦場に暑苦しさがなくて印象として弱いし、前半の軍隊描写も私が見た時点では娯楽として消費されきっていたので元ネタ確認をする気分が強かった。
6.『野火 Fires on the Plain』 (2015年、塚本晋也監督)どこまでも俗悪な描写をするからこそ、自然の美しさが印象に残る。組織も個人も助けてくれるどころか敵になる戦場。それでいて戦争映画としての型もきっちり固めている。
『野火 Fires on the Plain』 - 法華狼の日記
同年に公開された『サウルの息子』と、似た表現をねらって正反対の手法を選んだことも興味深い。被写界深度が深すぎるデジタル撮影による安っぽい画面の、現在に通じる実在感。
7.『カジュアリティーズ』(1989年、ブライアン・デ・パルマ監督)ベトナム戦争における米軍慰安婦事件が題材。戦争映画として標準的に見どころがある前半から、徐々に軍隊映画らしい後半へ移行していく。
『カジュアリティーズ』 - 法華狼の日記
悪夢が終わったかにみせて、ほとんど台無しにするエンドクレジットのテロップも印象的だった。
8.『ルワンダの涙』(2005年、マイケル・ケイトン=ジョーンズ監督)おそらく有名で評価も高いのは英雄譚の『ホテル・ルワンダ』だろうが、歴史と状況そのものを見つめようとする作品としてはこちらに軍配をあげたい。
『ルワンダの涙』 - 法華狼の日記
ひとけのなくなった市街地の恐ろしさはポストアポカリポス映画の域に達している。武器をもたない無力な一個人が戦場に置かれた映画として、よく状況を描けている。
9.『ジャーヘッド』(2005年、サム・メンデス監督)軍隊と戦場は描くが、戦闘は出てこない戦争映画。戦争がひとつの日常であるだけでなく、むしろ合理的に統制された現代では平和より退屈だという観点が印象深かった。
『ジャーヘッド』 - 法華狼の日記
10.『ミツバチのささやき』(1973年、ビクトル・エリセ監督)戦争そのものが終わった後、子供の目線で“怪物”との邂逅を描く。戦争との連続性をたちきった日常のなかに、ふいに戦争の残滓がまぎれこむ異物感。体制批判を隠蔽するための抒情的なドラマがよくできすぎていて、戦争映画らしさは少ないものの、いい映画ではあった。


ドラマの湿気が高い作品は好みではないので、どこか暴力を冷えた視線で見つめる作品が多くなった。戦争において英雄は存在しないが、末端の個人に視点をおく物語が私には好ましい。
ホロコーストを描いた作品なども考えていたが、軍事独裁や戦争というより非人道政策の側面が強いと考えて、今回は落とした。いずれ『サウルの息子』は簡単な感想を書いておきたい。
1位については史実より英雄的に描写された少将だけは好みではないが、邦画において珍しく素直に作戦の成功を願いたくなる。2位は状況だけを描いているため物語らしさは弱いが、けして悪い作品ではない。9位はよくできた作品と思うし、このベストテン企画でも投票されているが、なぜかあまり評価されない作品あつかいがされている。