法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『エイリアン:コヴェナント』

未来世界で、人間そっくりで知能をもつアンドロイドが誕生した。しばらくの後、宇宙を進む開拓船が事故を起こし、未知の惑星にたどりつく。
まず少人数が小型船で降りたその惑星には、先に別の人々が漂着して亡くなっており、ひとり残されたアンドロイドが手をさしのべてきたが……


『エイリアン』シリーズの6作目にして前日譚2作目として、2017年に公開されたSFホラー映画。シリーズ1作目と前日譚1作目のリドリー・スコット監督が手がける。
映画『エイリアン:コヴェナント』オフィシャルサイト

機会があって無料で鑑賞。前日譚1作目『プロメテウス』の評判が異常に低いこともあり、そちらは未見のまま前日譚2作目から見ることになった。
前半までは独立した内容らしく問題なかったし、全体としても1作品として完結していて、物語を追うことは難しくない。
ただ中盤の情景などを見ると、やはり『プロメテウス』を先に見ておいたほうが良かったらしい感じはした。


そして映画そのものの感想だが、ホラーファンの評価が前作よりは高いことと、シリーズファンの評価が前作くらい低いことの、両方が納得できる内容ではあった。
シリーズ1作目が宇宙船を城に見たてることでゴシックホラーを宇宙SFとして展開したように、孤島に漂流して惨劇に直面する古典ホラーを宇宙SFとして展開。
冒頭で事故にあう開拓船からして、帆船を思わせるデザインになっている。過去のシリーズで人間の脅威となったエイリアンも、今作はアンドロイドの思惑の範囲で動く。
まさしく古典SFホラー『モロー博士の島』の翻案という印象だ。
実験記録 No.02 : 【日本語訳】モロー博士の島(The Island of Dr. Moreau)

海難事故によって遭難し漂流するエドワード・プレンディックは奇妙な船に救出される。 動物を満載したその船は名も無い小さな島に向かい、そこでプレンディックはモローという名の科学者と出会う。 モローはこの島である「実験」を行なっていたのだ。


リドリー・スコットが多用する視界をさえぎる演出も、恐怖をもりあげる。約2時間という尺も、現代の大作SFとしては無駄を省かせて、間延びを感じさせない。
過去のシリーズが1作ごとの結末で完全に危機を脱したこと*1に対して、今回はホラー映画としても後味が悪いのだが、荘厳な雰囲気は嫌いではない。
それでいて過去のシリーズを思わせる要素も多い。着陸後の闘争が物語の大半をしめるところは2作目で、宇宙船内の追いかけっこは3作目で、変容したエイリアンのデザインは4作目といったところ。


ただ、過去のシリーズがエイリアンの謎と恐怖で物語を動かしたことに対して、あくまで便利なキャラクターだったアンドロイドを物語の中心にしたことは、シリーズの主題そのものが変わった印象はある。
怪物でありながら底知れない恐怖をはらんでいたエイリアンが、アンドロイドの手のひらの上で人間を襲うことも矮小化と思わせる。どこかアンドロイドの思惑をエイリアンが超える場面もほしい。
事故後の難破船らしさを強調するためだとしても、開拓船の技術が前日譚にしては先進的すぎる違和感もある。過去のシリーズで描かれた宇宙技術が、当時のSFでは珍しい泥臭さが魅力だったからこそ。

*1:1作目ではエイリアンの増殖を示唆する場面も撮影されていたが、編集で削除された。アクションホラーに徹した2作目は、最終的にカタルシスたっぷりの勝利にむすびついた。もっとも、そのように事態を解決しながら新たに作品をたちあげるため、3作目などでは前作の救いを否定する場面から始めてしまい、2作目ファンの不評を買ってしまった。