法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『南の島に雪が降る』

第二次世界大戦ニューギニア島に孤立した日本軍。遠き故郷をしのぶため、芸をもつ兵士たちがつどって慰問劇団を立ちあげる……


戦時体験にもとづく加東大介の小説を、東宝で1961年に映画化。黒澤明作品の名バイプレイヤーな原作者も本人役で出演。

まだ映画界に体力があり、東宝の大作志向にリソースが追いついていた時代。芸能で戦友を癒そうとするシンプルな物語を、約100分というタイトな尺で描いた。
横長の東宝スコープで、どっしりカメラを固定したカラー作品ながら、絵作りが重すぎない。戦場らしい悲哀を挿入しながら、人情喜劇らしい軽快な話運びで、慰問劇団が完成するまでを見せていく。
戦場はあくまで極限状況の構成要素にすぎない。現地人の存在は言及もされず、米軍は軍用機が爆撃するだけで兵士の姿は見えない。女性もひとりも映らない。
素人の男ばかりの劇団に、兵士たちは疑似的な女性を求め、名優を誉めそやす。それは滑稽で皮肉だが、狭い世界において虚構がひとときの救いをもたらすことを実感させる。
ありあわせの人と物をかきあつめて舞台を完成させていく展開に無駄はない。規格外な者たちが集まって、使える素材で工夫していく姿に、『七人の侍』を思わせる面白味があった。


ちなみに、実話にもとづきつつ演劇をテーマにした物語のためか、くりかえし舞台化もされていて、その映像がGYAO!で無料配信中。
舞台「南の島に雪が降る」 | バラエティ・スポーツ | 無料動画GYAO!
また、1995年のリメイク映画化では、水島聡が監督と脚本をつとめた。どのように権利を調整したのか、チャンネル桜で無料配信している。

少しだけ視聴したが、2時間超という尺をもてあましたのか、ひとつひとつのカットが間延びしているし、描こうとする要素が多いためリソースが不足している。
俳優の描写がバストショットばかりで単調という問題もある。けっこうTVドラマではキャリアのある水島監督だが、映画らしい絵作りはできなかったようだ。
全体を見れば印象が変わるかもしれないが、少なくとも導入についてはテーマをしぼって完成させた1961年版の正しさを感じざるをえなかった。