法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『バンパイアの惑星』

惑星へ救難へ向かった宇宙船アルゴ内に、着陸前後から怪しげな空気がただよっていく。狂乱する乗組員、不審な墓穴、謎の宇宙船に残された巨大な死骸……


マリオ・バーヴァ監督による1965年のイタリア映画。1時間半に満たないB級SFだが、映画『エイリアン』の元ネタのひとつという説がある。

バンパイアの惑星 [DVD]

バンパイアの惑星 [DVD]

  • 発売日: 2018/10/26
  • メディア: DVD

宇宙船内から惑星の大地まで、画面のほとんど全てがスタジオセット。おそらく大作ではないが、荒野を異星に見立てるような安っぽさがなくて、全編に不思議な緊張感がある。
映像技術的には年代が近い『ウルトラマン』と良くも悪くも同じくらい。比べるとミニチュアや合成は少ないが、釣りを使わず揺れない宇宙船は安定感があり、ちゃんと巨大な着陸脚も作って見せる。セットも少ないが、構図が工夫されていて単調ではない。
ビジュアルデザインも意外と良い。冒頭のアルゴ船内は殺風景でつまらないが、黒革のキャットスーツのような宇宙服が個性的。照明で原色が乱舞する惑星は『サスペリア』のようで、合成も使っているのか、うまく大地の遠近を誇張して惑星の広がりを感じさせる。

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謎の宇宙船は幾何学的で異文明らしいデザイン。実体あるモンスターこそ登場しないが、巨大な白骨死体*1や、死体化した乗組員の特殊メイクの出来もいい。イタリア映画が得意だろう造形技術を最大限に活用している。


物語は、たしかに『エイリアン』との共通点が目立つ。救難信号が罠という導入、異星に残された巨大な死体、寄生する敵生命体……そして全て終わったかに見えて、脅威が残っている結末まで通じる。
ただし元ネタのひとつくらいの可能性で、閉鎖環境で怪物に追いつめられていく要素はない*2。ホラーとしては人間同士の疑心暗鬼の側面が強い。寄生する敵は姿を見せないかわりベラベラしゃべり、神秘性を損ねているのが残念。
少し感心したのが、SFらしい手続きが地味にていねいなこと。たとえば不時着時に狂乱した乗組員が惑星に飛び出て行って、追いかける乗組員がヘルメットで気密を確保する描写がある。追いかける障害を増やしてサスペンスを高めつつ、狂乱した乗組員が無事だったことから以降はヘルメットをつけずに活動しても説明がつく。脚本を担当したひとりイブ・メルキオールの手腕だろうか。
オチの切れ味もなかなかいい。脅威が残っているだけなら当時は斬新でも現在はありふれているが、さらなる急展開でホラー色を高めて終わる。ずっとスタジオセットを映してきたからこそ、最後の現実感がきわだつ。よくできたショートショートを見た気分だった。

*1:インターネットの感想では「ミイラ」という表現を見かけるが、皮膚や肉片や衣服が残っているわけではない。

*2:こちらは『恐怖の火星探険 (日本語吹替収録版) [DVD]』が元ネタのひとつとして古くから知られている。