法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

アニメ専門のWEBメディア「あにぶ」に掲載された『鋼の錬金術師』の紹介記事がちょっとひどい

これでもプレスリリース配信社「バリュープラス」が立ちあげ、現在は「情報保安通信」が運営をひきついだ、会社による商業メディアらしい。

問題の記事はTVアニメ1作目を担当した水島精二監督のツイートで知ったが、日付を見ると2017年の記事だ。
https://anibu.jp/20170116-hagaren-44781.html
注目とともに批判されて、いったん「爆発炎上」を謝罪しつつ代わりの文章をライターを募集する内容に書きかえられた。

この鋼の錬金術師の記事を、是非ツイッターからこられたライターの皆さんに執筆頂けないでしょうか?トーナメント方式で、人気投票でトップの原稿には18,000円の原稿料をお支払いさせていただきます。

もちろんこの文章も重ねて批判され、現在は記事そのものが「調整中」として削除されている。


さて、問題の記事は消される直前に読んだが、たしかにひどい内容だった。
水島監督がいうように事実誤認がひどいし、文章も商業サイトとは思えないほど読みづらかった。

鋼の錬金術師 」2001年〜2010年という長期連載でありながら非常に人気があり、 漫画連載途中にアニメ第1作が登場しました。

この冒頭の一文目から、いきなり読んでいてつっかえた。普通は非常に人気があったからこそ長期連載ができたと考えるべきだろう。
かかりうけの歪みを消してリライトするなら、“『鋼の錬金術師』は非常に人気があり、2001年から2010年にかけた長期連載の途中にアニメ第1作が制作されました”といった文章になるだろうか。


次の内容説明でも、後半にあかされる根幹設定から説明をはじめるという、ネタバレへの配慮のなさに驚いた。つづけての主人公兄弟の説明もおかしい。

エドワード兄弟も、父親が何らかの目的で消えてしまい、 母親を生き返らせようと、自分達で連勤儒を勉強し、「人体錬成」をするけれども、 失敗して、エドは左足、アルは全身、エドは真理の扉から出すために、自分の右腕で 真理の扉を開けて、魂のみを抜き出し、鎧に定着させます。

「連勤儒」という誤字には目をつぶるとしても、「失敗して、エドは左足、アルは全身、」がどうなったかの説明がまるごと欠落していることに目を疑う。


問題の1作目の説明では、最初から1年間にわたって放映することが決まっていた事実すら無視した憶測が飛び出す。

1作目の監督は、途中で漫画のスピードとほぼ一緒になったことはうすうす気づいたようで、 よく原作が漫画で、アニメ化したらスピードが合わなくなるという現象はよくあります。

原作が序盤の段階でTVアニメの制作が決まっており、異なる結末にすることは既定路線だった。原作通りの結末にできないという情報は秘密でも意外でもなかった。
むしろ長期化した原作にあわせてTVアニメのスピード調節が必要になったのは、同じ結末を遅らせて公開する必要があった2作目といわれている。


1作目の劇場版に対する説明も疑問符をつけざるをえないもので、高評価している2作目にも失礼な内容になっている。

不消化のまま終わった1作目の埋め合わせをする為に、 「劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラの道を征く者」が上映されていますが、 いまひとつ興業成績は悪かったという悲しい結果があります。

だから、この失敗があるので、アニメ映画化はないと思われていたのですが、 生身の人間を使った映画化が計画されていて、キャストも決まっています。

公式サイト等からコピペするだけでいいタイトルを、なぜ間違う。

2005年に公開された劇場版1作目は、12億円以上の興行収入をあげた。この数字は同年の『ワンピース』『NARUTO』『仮面ライダー』シリーズの劇場版を上回るほどのヒットだ。
過去興行収入上位作品 一般社団法人日本映画製作者連盟
そして「アニメ映画化はないと思われていた」という「誰によって?」といわざるをえない主張は、劇場版2作目も存在するという事実が反証となる。

監督他スタッフがさらに交代してオリジナルストーリーで制作された後日談で、興行収入は1作目の約半分ではあるものの、スタジオジブリとWEB系アニメーターが合流した作画は凄まじく充実していた。忘れられては悲しい作品だ。


それにしても、どうしてこれほどひどい記事が編集部名義で発表されたのかを考えて、公式ライターの募集ページを読んで理解できた。
アニメライター 募集中!アニメコラムや記事のお仕事を募集しています。 - あにぶ

はじめのサンプル原稿には、原稿料は発生しません。採用後、1コラムの掲載につき100円をお支払いします。ただし、毎月10コラムを投稿、採用された場合は、ボーナス+1000円(10コラムの場合は原稿料合計2000円)になる計算です。

ふたつのサンプル原稿を書かせ、そのアクセス数を基本に次の原稿が採用されても、1記事たった100円。10記事を採用されても2000円しか出ないという。今回の18000円すら「あにぶ」では破格の対価なのだ。
クラウドソーシングでライターに1文字1円などで発注して問題視される事例よりも低いくらいだ。事実、運営している「情報保安通信」がランサーズでライターを発注していたことも確認できた。
情報保安通信 | 未選択 | クラウドソーシング【ランサーズ】
たぶん、ライターとして参加している人々は、ポータルサイトに感想を書きこむついでに、こづかいくらいのオマケがあればいい……くらいの考えではないかと想像する。対価だけが目的ならば、個人ブログで好きなようにアニメ感想を書いてアフィリエイトしたほうが効率がいい。
発注側が文章にこのくらいの価値しか認めないようでは、編集部が文責を負う記事のレベルも推して知るべしだ。


ちなみにライターの書いた同じテーマの記事も「あにぶ」にあるが、2016年に書かれた短い内容ながら、編集部より圧倒的に正確で、文章もまとまっている。
貴方の ハガレン はどちらから?「鋼の錬金術師」と「鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST」 - あにぶ
執筆している人物は2016年に「あにぶ」のライターになった後、2017年に電子書籍配信社で商業BL小説家デビューしている。もともとの実力があったのだろう。