法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ルパン三世 血の刻印〜永遠のmermaid〜』

テレコムアニメーションがアニメーションの実制作を担当した2時間SP。
3DCG背景や背景動画を活用して、縦横無尽に空間移動するカメラが面白い。中盤と後半のアクションは作画も堅実かつ派手で、奇をてらった構図で楽しめた。
キャラクターデザインと総作画監督をつとめた佐藤好春*1は影の少ない、描線もさっぱりした、クセのない作画が魅力的。シンプルなデザインが激しいアクションを映えさせる。


EDクレジットを見る限りでは、演出からアニメーターまで、メインをほとんどテレコム関係者でしめているようだ。近年のテレコムは海外作品を手がけることが少なくなっているが、『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』等の国内作品に参加して高い基礎力の健在ぶりを見せている。滝口禎一監督も『空の境界 第四章〜伽藍の洞〜』で監督に抜擢された後にテレコムへ復帰したアニメーターだ。
2007年でテレコムが制作を担当したSPは、作画が堅実なだけに、コンテのつまらなさが足を引っぱっていた*2。今回は最近の国内アニメに深く参加した経験が活かされているのかもしれない。
全体としても、伝奇要素とか不老不死とか人間の怪物化とかアクション描写の凄惨さとか、『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』を参照したようにも感じられる。そういえば今SPで脚本をつとめた土屋理敬も各話脚本で参加していた。
もちろん比較するとSFや伝奇考証のようなディテールは色々と雑で、伝説を引っぱるならもっと説得力が高い史料も探すべきとは感じたが、『ルパン三世』は設定がもともと粗い作品なので期待しすぎてもしかたない。


物語は、プログラムピクチャーとして基本を押さえていった内容。
90年代以降のSPはレギュラーキャラクターいじりを多用して自己パロディが目についたが、今回は最大公約数的なキャラクター描写を踏まえて逸脱せず、安心してアクションを楽しめる。ちゃんと銭型警部にも見せ場のアクションが割りふられ、間抜け一辺倒な描写が多い過去のアニメ化に違和感を持っていた原作読者としても納得できた。
かわりにゲストキャラクターにドラマが集中して展開が重たくなったり、そのゲストキャラクターの回想が卑近すぎる題材で『ルパン三世』らしさを感じなかったり、敵が小物ばかりというバランスの悪さも見受けられたりしたが、レギュラーをふくむ各キャラクターがかかえた葛藤は結末までおおむね解決されている。きちんとテーマや設定は消化しているので、全体として悪い脚本構成ではない。初代ルパンがえた宝など、それらしいオチもついていた。

*1:個人的には傑作防犯ビデオ『kidnap』の仕事が忘れがたい。

*2:感想はこちら。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20070728/1185664740