法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り』リモコンねこでとり返せ!/フクロマンスーツ/ツチノコみつけた!/「映画クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリ」

2番組を合体させた恒例の3時間SP。


「リモコンねこでとり返せ!」は、動物をリモコンで操る秘密道具で、ジャイアンからスネ夫のオモチャを奪い返そうとするが……
パクキョンスンコンテ演出の掌編だが、それよりも小橋弘侑という初参加の作画監督が気にかかる。どうやら若手アニメーターらしく、作画を見ると上手い下手でいうなら間違いなく良い*1のだが、とにかく絵柄の特徴が強くて印象がひきずられてしまう。序盤の立って歩く犬の気持ち悪さを、どこまで意図的に作画しているのか判断がつかない。異様に人間的な頭身のようでいて、四足歩行にもどった時の後ろ足とちゃんと関節が対応している。
今回に制作協力している十文字という会社も見覚えがなく、どうやらグロス請けしているらしいが*2、関係がよくわからない。
「フクロマンスーツ」は、ヒーローの能力をオモチャのレベルで発揮できる秘密道具が登場。のび太はそれで実際にヒーロー活動しようとするが……
活躍して賞賛されたいという欲望が裏目に出る、この作品らしい風刺劇の映像化。すでに2007年6月1日に「正義のヒーロー」をあつかう別原作とともにアニメ化され、番組コンセプトとして原作を超えた面白味を生んでいた。比べると、けして悪くはないが原作をそのまま動かしただけという印象が残る。たとえば劇中劇コンドルマンの絵柄を変えて、別番組と錯覚するような作画にしても良かったのでは。
ツチノコみつけた!」は、未来の百科事典に掲載されたジャイアンに対抗して、ツチノコ発見者として先に登録しようと画策するが……
2012年末SP*3で映像化された短編のリメイク。今回もツチノコという忘れられたUMAの説明をオリジナルで足して、さらに実際の描写と対応させていた。通常よりやや長めの尺で映像化していたが、未来世界でのツチノコブームの観察を増やしたり、現代にもどってからの描写を少し足したりして、意外と中だるみなくしあがっていた。作画も整っていて、未来世界の少女たちのファッションも独特で可愛らしい。


映画クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリは、映画25周年作品。野原家の両親が25歳の若返りをする展開も、当時に子供だった観客に共感してもらうことを意識してのことか。
さらに過去作品に登場したキャラクターやアイテムが登場し、放映時は連動して番組ツイッターを更新していたという。


監督は前々作『映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語〜サボテン大襲撃〜』*4が好印象だった橋本昌和がつとめ、脚本とコンテも兼任。共同コンテとして高橋渉も入っている。
落ちてきた宇宙人の子供シリリによって、ひろしとみさえが子供にされてしまい、もどすためにシリリの父がいる鹿児島県へと向かうロードムービー
しんのすけの活躍に隠れているが、ひろしとみさえも主人公になりそうなほどバイタリティが充分ある。それが無力化したことで、過去になく穏やかなロードムービーが展開された。しんのすけも、天衣無縫なキャラクターのようでいて、敵味方の垣根を超えて周囲を茶化すことが限界だから、直接の問題がない一本道の旅では等身大の少年になる。
もちろんトラブルは何度となくふりかかるが、一見して現実に起こりうる範囲でのみ展開されて、それがけっこうおもしろい。出会う人々との等身大のやりとりが楽しく、とおりすぎるリアルな情景にも情緒があって、足りない刺激はシリリの存在が補う。
大人に成長したいのに子供のままという、傑作『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』と近しいテーマを、今度は社会的立場と身体が子供になった両親の立場で語りなおした。


展開のツッコミどころも少なく、いくつかの御都合主義も最後に明かされる真相で説明がつく。
過去の映画でさまざまな出会いをしているのに、カスカベ防衛隊が宇宙人の存在を懐疑するのは、25周年記念のために単独で成立する作品にするためと思えばいいだろう。よく見ると、基本設定を説明する描写が過去の映画と比べて多い。
ただ、大人にとって明らかな非常事態で急いでいるのだから、飛行機に乗れない理由は劇中の説明でいいとして、タクシーは活用できるだろうという疑問はある。たとえば、子供だけなので家出とかんちがいされて乗せてくれず、以降はリスクを勘案して使わない描写を入れるだけでいい。


また、クライマックスがいたずらに長いことは娯楽作品として難。もっと一気呵成に逆転劇を展開してほしかった。
ロードムービーではていねいな描写が好印象をもたらしたが、謎解きと逆転劇では時間をかけただけカタルシスを薄めてしまい、野原一家の反抗を敵が押さえこめない描写にも疑問を感じてしまう。アクションシーンの作画も弱い。
親子の意見をたがえてでも成長する痛みを、ゲスト宇宙人が別離して示すというラストは意外で良かったし、感動的に見せたギャグで事態を収拾するエピローグは感心したので、最終的な印象は好転して終わったのが救い。